培養皿で育つ人間の融合脳が胎児の段階に到達
培養皿で育つ人間の融合脳が胎児の段階に到達 / Credit:Anannya Kshirsagar et al . bioRxiv (2025)
biology

培養皿で育つ人間の融合脳が胎児の段階に到達

2025.02.25 17:00:39 Tuesday

培養皿の中で“胎児の脳”に近づこうという試みが、今、大きく進展しています。

ヒトの細胞から作られた小さな脳“オルガノイド”に、大脳や小脳など複数の領域を組み合わせ、さらに血管のもととなる細胞も加えることで、胎児脳とよく似た多様な細胞を持つミニチュアの脳が出来上がりました。

研究者によれば、この“融合オルガノイド”は胎児期の脳に見られる細胞タイプの約80%を含んでいるとのことです。

自閉症や統合失調症といった、動物実験だけでは解き明かしにくい複雑な脳の病気の研究に役立つのでは、と期待が高まっています。

一方で、ヒトの脳構造に近づくほど「意識や痛みを感じるのではないか?」という倫理的な問題も浮上。

まだその段階には遠いと専門家は言うものの、技術が進むほど社会的な議論も必要になるでしょう。

果たして培養皿の上で育つミニチュアの脳は、私たちの医療や科学をどこまで進歩させるのか――最先端の研究をのぞいてみましょう。

研究内容の詳細は2025年2月19日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました

Multi-Region Brain Organoid –Fusion Organoid with Cerebral, Endothelial and Mid-Hindbrain Components https://doi.org/10.1101/2025.01.20.633788

ついにここまで来た!多領域脳オルガノイド

培養皿で育つ人間の融合脳が胎児の段階に到達
培養皿で育つ人間の融合脳が胎児の段階に到達 / Credit:clip studio . 川勝康弘

のオルガノイド研究は、2013年頃から急速に注目を集めてきました。

これは、ヒトの幹細胞(ES細胞やiPS細胞など)を培養することで、試験管の中に立体的な脳組織の“ミニチュア版”を再現する技術です。

最初は大脳皮質だけ、小脳だけ、といったふうに特定の領域を限って作られたケースが多かったのですが、ヒトの脳疾患は往々にして複数の領域や細胞タイプの異常が絡み合うため、より包括的な“丸ごとの脳”に近づけたいという研究ニーズがありました。

さらに重要なのが、脳を支える血管の存在です。

血管は酸素や栄養を運ぶだけでなく、脳の発生や機能に関するシグナル(合図)を出すなど、ただの“管”以上の役割を果たしています。

しかし、これまでのオルガノイド研究では十分に血管の構造や機能を再現するのが難しく、オルガノイドを大きく育てると中心部分が死んでしまうなどの問題がありました。

こうした背景から、複数の脳領域をまとめて再現し、しかも血管に近い細胞が加わったモデルをつくろうとする取り組みが近年活発化しています。

なかでも、大脳だけでなく後脳や中脳、そして血管のもととなる上皮細胞などをひとつに融合するアプローチは、いっそうヒト胎児脳に近い“ミニ脳”を育てるカギと期待されています。

これが今回の研究で紹介された“多領域脳オルガノイド”という新しいモデルです。

こうしたよりリアルなオルガノイドが実現すれば、脳科学の謎に迫るだけでなく、自閉症や統合失調症といった複雑な神経発達障害の仕組み解明にも大きく貢献できると期待されています。

次ページ衝撃の成果:融合脳オルガノイドが“胎児脳”に近づく

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!