3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった
3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった / 人物はイメージです/Credit:clip studio . 川勝康弘
biology

3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった

2025.02.18 18:00:09 Tuesday

私たちの先祖がアフリカを出たころ、肌の色は黒かった―――そんな通説はよく知られています。

ところが従来は「ヨーロッパに渡った人類は強い冬の日照不足に対応するため、すぐに肌が白くなった」と考えられてきました。

しかし、イタリアのフェラーラ大学(UNIFE)で行われた大規模な古代DNA研究は、その定説に大きく疑問を投げかけます。

約4万5000年前から1700年前までにヨーロッパ各地で暮らしていた数百人の遺伝子を詳細に分析した結果、実に6割以上が濃い色(dark to black)の肌を示していたのです。

いわゆる「白い肌(light~pale)」とされる個体は1割にも満たず、本格的に増え始めたのは紀元前後に近い時期からかもしれない、という驚きの指摘も含まれています。

この発見は、石器時代の狩猟採集民に代表される初期ヨーロッパ人が、想像以上に長い期間、アフリカ起源の“濃い肌色”を保っていた可能性を示唆します。

狩猟生活によってビタミンDを十分に摂取できたため、肌を白くする必要性がそれほど強く働かなかったのではないか――そんな新たな進化のシナリオが浮かび上がってきました。

肌の色の変化はいつ、そしてなぜ起こったのか。

本研究は、人類の進化と移動の歴史を改めて見直すきっかけとなりそうです。

研究内容の詳細は2025年2月12日にプレプリントサーバーである『bioRxiv』にて公開されました。

Inference of human pigmentation from ancient DNA by genotype likelihood https://doi.org/10.1101/2025.01.29.635495

人類は最初みんな黒い肌を持っていた

3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった
3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった / 肌の色の割合を時代別に示したもの。新石器時代になる以前では暗い肌の色がヨーロッパで主流だったことがわかります/Credit:Silvia Perretti et al . bioRxiv (2025)

人類はおよそ20万年前にアフリカで誕生し、そこから世界各地へと移動をはじめました。

赤道付近の強い日射量の下で暮らしていたため、初期の現生人類は濃い肌色(dark to black)を持っていたと考えられています。

実際に今日でも、アフリカに暮らす多くの集団が高いメラニン色素を受け継ぎ、紫外線から身体を守るうえで大きな利点を得てきました。

その後、人々はヨーロッパや北アジアなど紫外線量の少ない地域へと進出します。

そこで長らく支持されてきたのが、ビタミンDの合成効率や気候適応の観点から「肌を白くする」遺伝的変異が急速に広がったという仮説です。

冬季に日照量が減少する高緯度地方では、メラニンが多すぎると十分な紫外線が皮膚に届かずビタミンD不足に陥る恐れがあるため、肌がより白いほうが生存上有利だったのではないか――この説は近年まで広く受け入れられていました。

ところが、約1万年前の英国に暮らした「チェダーマン」の骨から抽出されたDNAを解析したところ、非常に黒い肌と青緑色に近い淡い目を持っていた可能性が指摘され、ヨーロッパ人が“速やかに白くなった”とする定説に疑問が投げかけられました。

ただし、この推定には法医学的プロファイリングの限界や遺伝子変異の未解明部分もあり、追加の検証が望まれるとされています。

一方で、こうした事例をきっかけに、古代DNA解析技術が急速に発展し、法医学の分野で使われている身体的特徴の推定手法が古代DNAにも応用されるようになりました。

しかし、古代のDNAは断片化や汚染が進んでいることが多く、サンプル数そのものも限られるため、推定には不確実性が伴います。

そのため、より多くのサンプルを扱い、広範な地域・時代をカバーする研究が重要とされてきました。

今回の研究は、4万5000年前から1700年前にヨーロッパ各地で暮らしていた348人のゲノムを徹底解析し、肌・目・髪の色を総合的に推定する大規模な試みです。

その結果、想定以上に長い期間、ヨーロッパ人の大多数が濃い肌色を維持していた可能性が示唆され、「3000年ほど前(もしくは鉄器時代)になるまで多くの人が黒っぽい肌を保っていたのではないか」という見解が浮上してきたのです。

この新たな進化シナリオは、ビタミンDの合成効率を重視する従来説だけでなく、農耕の普及・移住・混血などの社会的・歴史的変化との関連についても再考を迫ります。

人類が長い年月を経てどのように姿を変え、なぜその変化が起こったのか――本研究の成果は、人類史そのものを根本から見直す新たな材料になるでしょう。

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