人類は最初みんな黒い肌を持っていた
![3000年ほど前までほとんどのヨーロッパ人の肌は黒かった](https://nazology.kusuguru.co.jp/wp-content/uploads/2025/02/8881407b6d811ae5631e8f5673144f8a-900x506.jpg)
人類はおよそ20万年前にアフリカで誕生し、そこから世界各地へと移動をはじめました。
赤道付近の強い日射量の下で暮らしていたため、初期の現生人類は濃い肌色(dark to black)を持っていたと考えられています。
実際に今日でも、アフリカに暮らす多くの集団が高いメラニン色素を受け継ぎ、紫外線から身体を守るうえで大きな利点を得てきました。
その後、人々はヨーロッパや北アジアなど紫外線量の少ない地域へと進出します。
そこで長らく支持されてきたのが、ビタミンDの合成効率や気候適応の観点から「肌を白くする」遺伝的変異が急速に広がったという仮説です。
冬季に日照量が減少する高緯度地方では、メラニンが多すぎると十分な紫外線が皮膚に届かずビタミンD不足に陥る恐れがあるため、肌がより白いほうが生存上有利だったのではないか――この説は近年まで広く受け入れられていました。
ところが、約1万年前の英国に暮らした「チェダーマン」の骨から抽出されたDNAを解析したところ、非常に黒い肌と青緑色に近い淡い目を持っていた可能性が指摘され、ヨーロッパ人が“速やかに白くなった”とする定説に疑問が投げかけられました。
ただし、この推定には法医学的プロファイリングの限界や遺伝子変異の未解明部分もあり、追加の検証が望まれるとされています。
一方で、こうした事例をきっかけに、古代DNA解析技術が急速に発展し、法医学の分野で使われている身体的特徴の推定手法が古代DNAにも応用されるようになりました。
しかし、古代のDNAは断片化や汚染が進んでいることが多く、サンプル数そのものも限られるため、推定には不確実性が伴います。
そのため、より多くのサンプルを扱い、広範な地域・時代をカバーする研究が重要とされてきました。
今回の研究は、4万5000年前から1700年前にヨーロッパ各地で暮らしていた348人のゲノムを徹底解析し、肌・目・髪の色を総合的に推定する大規模な試みです。
その結果、想定以上に長い期間、ヨーロッパ人の大多数が濃い肌色を維持していた可能性が示唆され、「3000年ほど前(もしくは鉄器時代)になるまで多くの人が黒っぽい肌を保っていたのではないか」という見解が浮上してきたのです。
この新たな進化シナリオは、ビタミンDの合成効率を重視する従来説だけでなく、農耕の普及・移住・混血などの社会的・歴史的変化との関連についても再考を迫ります。
人類が長い年月を経てどのように姿を変え、なぜその変化が起こったのか――本研究の成果は、人類史そのものを根本から見直す新たな材料になるでしょう。