心臓に血液が届かなくなる「虚血」――目指すは「ゼロ虚血時間」
心臓移植は1967年に初めて成功し、以来大きく発展してきました。
しかし、その中でも問題となってきたのは「虚血」でした。
「虚血(きょけつ)」とは、臓器に十分な血液が届かなくなり、酸素や栄養が不足してしまう状態のことです。
血液は臓器を生かすためのエネルギー源なので、流れが止まると細胞がすぐに傷み始めてしまいます。

心臓はとてもエネルギーを使う臓器なので、ほんの少しでも血液が止まるとダメージを受けてしまいます。
一般的な心臓移植では、虚血時間が通常4時間以内に抑えられますが、それでも短ければ短いほど心筋へのダメージが減り、移植の成功率や心機能の回復が高まるとされています。
現代では「Organ Care System(OCS)」という特別な装置を使って、心臓を体温に近い温度で守りながら輸送することができます。
しかし、従来のOCSを用いたとしても、完全に虚血を避けることは難しく、短時間でも血流が途切れてしまいます。
これに対して、NTUHのチームが開発した新しいOCSは、心臓を一切止めることなく、最初から最後までずっと拍動(心臓の動き)を保ったまま移植につなげるというもの。

このシステムは、体外式膜型人工肺(ECMO)から着想を得て設計され、心臓に絶え間なく酸素を含んだ血液を送り続ける仕組みになっています。
温度と圧力も適切に管理されており、手術室から手術室への移動中も心臓を動かしたまま安全に運べます。
この新しいシステムは、従来のOCSと同じ機能を持ちながら、さらに心臓を常に拍動させ続け、虚血を完全に回避するという点で進化した「次世代型OCS」とも呼べる存在です。
これにより、心筋細胞(心臓の筋肉の細胞)がダメージを受けず、最高の状態で移植できるのです。
では、新システムを用いた、世界初の「ゼロ虚血時間」心臓移植はどうなったのでしょうか。