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なぜ生活が苦しいのに、今の政府は「増税」の話ばかりするのか?【格差拡大の理由】

2025.04.12 12:00:02 Saturday

物価は上がっているのに、給料は増えない。スーパーへ行くと「また高くなってる」、今の日本ではそんな状況が繰り返されています。

一方でテレビをつけると「増税」や「消費税率の見直し」ばかりを政治家が語っています。

なぜ、こんなにも生活が苦しいのに、政府は「増税」と言っているのでしょうか? 現状が見えていないのでしょうか?

実のところ、現在主流の経済理論に従うと、インフレ傾向や通貨安が進んできた現状で、増税の話をすることは理論上間違ってはいないのです。

ただ、それは今の日本政府のやっていることが正しいという意味ではありません。

なんでこんなに格差が拡大したのか? なんで庶民の感覚からズレた議論がどんどん進むのか? という疑問をMMTという経済理論の視点から解説していきます。

A Primer on Modern Monetary Theory(PDF) https://www.fraserinstitute.org/sites/default/files/primer-on-modern-monetary-theory.pdf
Has Japan Been Following Modern Money Theory Without Recognizing It? No! And Yes. https://www.levyinstitute.org/publications/has-japan-been-following-modern-money-theory-without-recognizing-it-no-and-yes/ A Theory of Protest Voting https://academic.oup.com/ej/article-abstract/127/603/1527/5068889?redirectedFrom=fulltext&login=false

すべては「経済を立て直す」という名目で始まった

バブルが崩壊した1990年代、日本は長い不況に突入します。

企業は利益を出せず、失業者も増え、「日本はもう成長できないのか?」という不安が広がりました。

そこで政府がとった方針が、「構造改革」と「グローバル競争力の強化」でした。

「構造改革」はよく耳にする言葉だと思いますが、これは言い換えれば国や企業の“節約術”のようなものです。

たとえば、家計が苦しくなったとき、まず考えるのは「無駄な支出を減らす」ことですね。外食を減らす、サブスクを解約する、電気代を節約する…。そうやって支出の見直しをするのが「節約術」。

構造改革も、これと似ています。

日本がバブル崩壊で経済的に苦しくなったとき、政府も企業も赤字額が膨れていくことを恐れて、まずはお金の使い方をを見直そうとしました。そしてあちこちの無駄な支出を減らしたのです。

ただし、ここで注意が必要です。

たとえば「リストラ」という言葉、本来は経営の合理化を意味します。でも多くの人が「リストラ=クビになること」と受け止めているように、支出で見直される大部分は人件費になりがちです。

そのため構造改革もまた、多くの人の「雇用を奪う改革」になってしまいました。

実際構造改革がどういう内容のものだったか見てみましょう。

構造改革は無駄を減らしたが、多くは人件費
構造改革は無駄を減らしたが、多くは人件費 / Credit:ナゾロジー編集部,OpenAI
  • 派遣労働の解禁・拡大(1999年):企業が正社員を減らし、人件費を圧縮。
  • 終身雇用・年功序列から成果主義へ:人件費削減と労働力の効率化。

  • 法人税の引き下げ:企業が国際競争に勝てるようにする。

  • 公共サービスの民営化:郵政や電力の民営化により市場競争を導入し価格低下へ。

これは確かに企業のコスト削減を進め、利益を回復しました。しかしその多くに人件費の圧縮が含まれています。

そのため、企業の利益は増えましたが、働く人にはその利益が回らない構造が定着したのです。

結果として起きたのが、「格差の拡大」と「働いても報われない社会」の定着です。

苦しくなった生活を、私たちはどう乗り越えようとしたか?

このように庶民へのお金の流れが制限されたとき、低所得層ができる対策は基本的に2つしかありません。

それは「長時間働く」か「借金をする」かです。

  • 正社員は「残業代」も収入の一部として見込まなくてはならず拘束時間が長くなる

  • 非正規やフリーターは、生活費を確保するために複数の仕事を掛け持ちせざるをえない

  • 家計が足りない分はカードローン、奨学金、後払いサービスなどで「未来の収入を前借り」する

こうした状況に追いやられると、ほとんどの人は「抜け出せない貧困」状態に固定化されます。そうなれば当然多くの人は消費を控えざるを得ません。

そのため無駄を減らすという構造改革は、バブル崩壊で大幅に低下していた国内需要をさらに冷え込ませ、デフレを定着させる結果を生んでしまいました。

そして企業収益が改善しても賃金や雇用には波及しづらい、いびつな経済構造を残したのです。

長引くデフレと成長停滞のなか、政府は「構造改革では不況から脱却できない」と理解するようになりました。そこで政府は通貨発行によって需要を創出するという、新しい方向に政策の舵を切っていくことになります。

次ページ「政府はいくら借金しても実は大丈夫」新しい経済理論

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