筑波大学が覚醒し続けても「眠気の借金」は溜まらない物質を特定
筑波大学が覚醒し続けても「眠気の借金」は溜まらない物質を特定 / Credit:clip studio . 川勝康弘
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筑波大学が覚醒しても「眠気の借金」は溜まらない物質を特定

2025.04.18 21:00:30 Friday

午後3時、まぶたが鉛のように重くなり始めたころ――もし注射一本の“ビタミンB₁パワー”で目がシャキッと覚め、その勢いが数時間も続くうえに翌朝の寝不足感まで残らないとしたらどうでしょう。

筑波大学で行われた研究により、ビタミンB₁誘導体「TTFD(チアミンテトラヒドロフルフリルジスルフィド)」を投与された個体は、わずか10分で自発運動量が急増し、深い眠り(SWS)と夢を見る眠り(REM)がともに有意に減少した状態で活動を継続しました。

しかも夜が明けるころには総睡眠時間が大きく減ることもなく、“眠気の借金ゼロ”に近い覚醒プロファイルが得られたのです。

栄養素が脳の覚醒スイッチを押す――そんな未来のブースターは、本当に私たちの日常にも応用できるのでしょうか。

研究内容の詳細は『The Journal of Physiological Sciences』にて発表されました。

ビタミンB1誘導体には覚醒を誘導する効果がある https://www.tsukuba.ac.jp/journal/medicine-health/20250411140000.html
Promoting arousal associated with physical activity with the vitamin B1 derivative TTFD https://doi.org/10.1016/j.jphyss.2024.100001

ラットで証明する超速覚醒

筑波大学が覚醒し続けても「眠気の借金」は溜まらない物質を特定
筑波大学が覚醒し続けても「眠気の借金」は溜まらない物質を特定 / Credit:Canva

「運動しなきゃ」と思っていても、午後になると体も心も鉛のように重くてソファから動けない――そんな“やる気切れ”は、世界人口の約3割が抱える現代病とされています。

と筋肉は、スマートフォンでいえばバッテリーとCPUを同時に動かす設計で、どちらかのエネルギーが枯渇するとパフォーマンスが一瞬で落ちてしまいます。

ここで登場するのが“疲労回復のビタミン”として知られるビタミンB₁(チアミン)です。

100年以上前、フンク博士が白米食で脚気になったハトを救った逸話から始まり、ビタミンB₁は体内の燃焼サイクルを滑らかにする分子として活躍してきました。

近年、このビタミンの派生物が「脳内のガソリンタンク」までも満たすのではないかという報告が相次いでいます。

中でもTTFDは、通常のチアミンより吸収率が高く、血液脳関門を通過して前頭前皮質に到達しやすい化合物とされています。

過去の研究(Saiki et al., 2018)では、TTFDが前頭前皮質のドーパミン濃度を上げ、ラットの自発運動を増やすことが示されました。

そこで浮かんだ疑問は二つあります。

一つめは「この元気は筋肉がラクになったおかげなのか、それとも脳の覚醒スイッチが入った結果なのか」。

二つめは「覚醒を長時間伸ばした場合、普通は“眠気の借金”として後に強い疲労が来るはずだが、本当にツケは回らないのか」です。

栄養素が自然に覚醒を後押しするのであれば、従来にないパフォーマンスブースターになるかもしれません。

そこで研究者たちは、ラットにTTFDを投与し、脳波・筋電図・行動を同時に記録しながら、覚醒時間と睡眠構造、そして翌朝のリバウンド睡眠を精密に検証しました。

次ページ10分で覚醒、60分で再加速:ビタミンB1誘導体の特殊な覚醒パターン

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