ラットで証明する超速覚醒

「運動しなきゃ」と思っていても、午後になると体も心も鉛のように重くてソファから動けない――そんな“やる気切れ”は、世界人口の約3割が抱える現代病とされています。
脳と筋肉は、スマートフォンでいえばバッテリーとCPUを同時に動かす設計で、どちらかのエネルギーが枯渇するとパフォーマンスが一瞬で落ちてしまいます。
ここで登場するのが“疲労回復のビタミン”として知られるビタミンB₁(チアミン)です。
100年以上前、フンク博士が白米食で脚気になったハトを救った逸話から始まり、ビタミンB₁は体内の燃焼サイクルを滑らかにする分子として活躍してきました。
近年、このビタミンの派生物が「脳内のガソリンタンク」までも満たすのではないかという報告が相次いでいます。
中でもTTFDは、通常のチアミンより吸収率が高く、血液脳関門を通過して前頭前皮質に到達しやすい化合物とされています。
過去の研究(Saiki et al., 2018)では、TTFDが前頭前皮質のドーパミン濃度を上げ、ラットの自発運動を増やすことが示されました。
そこで浮かんだ疑問は二つあります。
一つめは「この元気は筋肉がラクになったおかげなのか、それとも脳の覚醒スイッチが入った結果なのか」。
二つめは「覚醒を長時間伸ばした場合、普通は“眠気の借金”として後に強い疲労が来るはずだが、本当にツケは回らないのか」です。
栄養素が自然に覚醒を後押しするのであれば、従来にないパフォーマンスブースターになるかもしれません。
そこで研究者たちは、ラットにTTFDを投与し、脳波・筋電図・行動を同時に記録しながら、覚醒時間と睡眠構造、そして翌朝のリバウンド睡眠を精密に検証しました。