カフェインの効果が薄れる「夏」の落とし穴

カフェインは、パフォーマンスを高める物質として多くのスポーツ選手に利用されています。
通常、運動の1時間ほど前にカフェインを摂取することで、集中力や持久力の向上が期待できます。
しかし、近年の研究で、気温の高い環境、いわゆる暑熱環境下では、こうした効果が得られないどころか、逆効果となる恐れがあることが指摘されてきました。
理由の一つは、深部体温の上昇が引き金となって起こる「高体温誘発性換気亢進反応」です。
これは深部体温(身体中心部の温度)の上昇により換気(呼吸)が過剰になり、結果的に体内の二酸化炭素が過度に排出され、脳への血流が低下する現象です。
この脳血流低下は、脳内の熱除去を妨げ、脳温上昇や中枢疲労を引き起こし、運動パフォーマンスを著しく低下させる可能性があります。
そして筑波大学の先行研究では、暑熱下の運動前にカフェインを摂取すると、この生理的ストレスが増大することが明らかになっています。
その要因は、運動開始時点で急激に血中カフェイン濃度が上昇することにあると考えられています。

このような背景を踏まえ、研究チームは、「暑熱下では、運動中にカフェインを摂取することで、有害な生理的ストレスを回避しつつ、パフォーマンス向上の恩恵を受けられるのではないか」という仮説を立てました。
この仮説を検証するため、健常な若年男女12名(男性7名、女性5名)を対象に、気温35℃・湿度50%の暑熱下で中強度および高強度の自転車運動を組み合わせた実験を行いました。
被験者はまず、最大酸素摂取量(VO2peak)の55%で30分間の中強度自転車運動を行い、次いで90%で疲労困憊に至るまでの高強度運動を行います。
その途中、運動開始5分後に、体重1kgあたり5mgのカフェインまたはプラセボ(ブドウ糖)を摂取しました。
では、暑熱下における運動中のカフェイン摂取はどのような効果をもたらしたのでしょうか。