あなたを縛る誉め言葉――「どうしてそんなに冷静でいられるの?」
私たちは褒め言葉を好意的に受け取ります。
誰かに「すごいね」「助かるよ」と言われれば、承認されたと感じますし、信頼関係も築きやすくなるでしょう。
ところが一部の誉め言葉は、「そのままのあなた」ではなく、「都合のいいあなた」だけを評価する性質を持っています。
つまり、相手にとって“心地よい”あなたの一部だけを繰り返し褒めることで、知らず知らずのうちにあなたの人格全体を特定の枠に押し込めていくのです。

そのような誉め言葉の1つが、「どうしていつもそんなに冷静でいられるの?」です。
一見これは、落ち着いていて動じないあなたを讃える美しい言葉に聞こえるかもしれません。
感情に流されず、冷静に判断できる人は尊敬される存在ですから、こう言われれば嬉しくなるのは自然な反応です。
でもこの言葉は、ある視点から見れば「感情を表に出さないあなたに価値がある」というメッセージを含んでいます。
つまり、怒りや悲しみ、不安などの“乱れた感情”を表に出すあなたは歓迎されていないという、暗黙のルールが敷かれているのです。
カナダのヨーク大学(York University)の2008年の研究では、少女たちは「怒りを言葉にすること」を否定される経験を重ねるうちに、次第に怒りや感情を無くしていくと報告されています。
少女たちは感情をコントロールすることを学ぶのではなく、感情を消し去ることを学ぶようになったのです。

そして、こうした不健全な状態に対して、「あなたって本当に冷静だよね」という賞賛が、「人格」として固定化させてしまうのです。
冷静さが「選択」ではなく「義務」になったとき、それは感情の自由を失った危険信号と言えるでしょう。
これは慢性的なストレスや抑うつにつながることもあり、注意が必要です。
危険な誉め言葉は他にもあります。