「君だけが話を聞いてくれる」という誉め言葉が”あなたを壊す”かも
2つ目の“危険な誉め言葉”は、「君だけが話を聞いてくれる」というもの。
これは非常に光栄な言葉に聞こえます。
「誰にも話せなかったことを、あなたには話せた」
そんなふうに頼られたら、「自分には価値がある」「信頼されている」と感じるのは当然です。

しかしこの誉め言葉には、別の側面があります。
それは、相手の感情のすべてを、あなた1人で抱え込ませる圧力です。
アメリカのノースウェスタン大学(Northwestern University)の2014年の研究では、人は感情の種類ごとに異なる相手に支援を求める(たとえば、怒りはAさん、不安はBさんに話す)ことで、精神的なバランスを保っていることが明らかにされています。
つまり、健全な心の在り方とは、「感情的なサポートが分散されている状態」だと言えます。
ところが「君しかいない」という言葉には、まるであなたがその人の“心のインフラ”のすべてを担っているかのような依存関係を匂わせる要素があります。
こうなると、あなたは相手の感情を処理する“唯一の装置”となり、疲れていても「聞かなきゃ」、自分が辛くても「優しくしなきゃ」と、際限のない自己犠牲が始まってしまいます。
これは、「尽くすことに価値を感じる」人や「人の役に立ちたい」という気質を持つ人ほど、抜け出しにくい罠です。
誰かに“支えになる存在”であることに価値を感じる人も多くいますが、その役割に縛られてしまうと、いざ自分が誰かに頼りたいとき、「弱音を吐いたらダメだ」「私はいつも支える側でなければ」と、自分を追い詰めてしまうことになります。

では、どうすればこのような誉め言葉に縛られずに、自分の感情を守ることができるのでしょうか?
それは、賞賛の裏にある“条件”を見抜く目を持つことです。
たとえば、こんな問いかけを自分にしてみてください。
「私は本当に“冷静な人”なのか? それとも、そう“振る舞うことで評価されている”だけなのか?」
「相手は私を信頼しているのか? それとも感情のゴミ箱として利用しているのか?」
これらの問いを繰り返すことで、自分が“演じている役割”と“本来の自分”とのズレに気づくことができます。
そして、自分の感情を出すことに「罪悪感」を持たない環境を少しずつ作っていくことが大切です。
本当の信頼とは、感情を出しても壊れない関係の中にこそ育まれるものです。
たとえば「今日はちょっとしんどい」と伝えることから始めてみるのも、一歩です。
あなたが「穏やかであること」や「聞き役であること」以上に大切なのは、自分を自由に表現できる心のスペースを保つことではないでしょうか。
褒めて伸ばす、伸ばして切る。