長すぎる「しっぽ」を持つ謎ウイルスを発見
長すぎる「しっぽ」を持つ謎ウイルスを発見 / Credit:A dinoflagellate-infecting giant virus with a micron-length tail
biology

長すぎる「しっぽ」を持つ謎ウイルスを発見

2025.08.04 17:00:38 Monday

アメリカのハワイ大学マノア校(University of Hawai’i at Mānoa)で行われた研究によって、太平洋の海からこれまでの常識を覆すような特異な巨大ウイルスが新たに発見されました。

このウイルスは「PelV-1(ペルブイワン)」と名付けられ、植物プランクトンの一種に感染するものです。

最も驚くべき特徴は、その非常に長い「しっぽ」です。

このしっぽは、最大2.3マイクロメートル(μm)もあり、新型コロナウイルスの直径(およそ0.1μm)の20倍以上に相当します。電子顕微鏡で観察すると、その形状はまるで小さなエイのようです。

また、このウイルスはエネルギーの生産や光合成に関連する遺伝子、さらに光をキャッチするアンテナの役割をするタンパク質の遺伝子まで保有していることも分かりました。

さらに研究では、このウイルスが海洋生態系における植物プランクトンの活動や、ひいては地球規模の炭素循環や気候変動にまで影響を与えている可能性が指摘されています。

果たしてこの巨大ウイルスはどのようにして進化し、しっぽは何に使われていたのでしょうか?

研究内容の詳細は2025年7月19日に『bioRxiv』にて発表されました。

A dinoflagellate-infecting giant virus with a micron-length tail https://doi.org/10.1101/2025.07.19.665647

ウイルスの常識が揺らぐ

ウイルスの常識が揺らぐ
ウイルスの常識が揺らぐ / Credit:A dinoflagellate-infecting giant virus with a micron-length tail

私たちはふつう、「ウイルス」と聞くと、インフルエンザやコロナのような、とても小さくてシンプルなものを思い浮かべます。

実際、多くのウイルスは直径が100ナノメートル(0.1μm)ほどと小さく、わずかな遺伝子だけを持ち、自分では増えることができない存在です。

ところが2000年代に入ってから、「巨大ウイルス」とよばれる変わり者たちが次々と見つかりました。

たとえば「ミミウイルス」「パンドラウイルス」「ピトウイルス」などで、体の大きさは数百ナノメートル以上、持っている遺伝子も数百個という、まるで細菌のような複雑さを持っています。

中でも2018年に見つかった「ツパンウイルス」には、0.55〜1.85μmもの尾がついていました。

でもこれまで巨大ウイルスは、主に陸や淡水に住むアメーバなどを感染先としており、海の中の植物プランクトンに感染する例はほとんど知られていませんでした。

これは大きな盲点となり得ます。

なぜなら、海は地球の「呼吸」を支える場所。

植物プランクトンは光合成によって酸素を生み出し、二酸化炭素を吸収しています。

そして、このプランクトンにウイルスが感染すると、大量に死んでしまうこともあります。

こうした感染が、地球の炭素の流れや気候にまで影響しているかもしれないのです。

ところが、実際に植物プランクトンに感染するウイルスがどんな姿なのか、詳しく調べられたことはまだほとんどありません。

特に、赤潮(海が赤くにごる現象)の原因にもなる「渦鞭毛藻(うずべんもうそう)」というグループについては、巨大ウイルスの報告はほんのわずかしかありませんでした。

そこで今回、アメリカ・ハワイ大学の研究チームが動きました。

研究者たちは、北太平洋のハワイ近くの海から植物プランクトンの仲間「Pelagodinium(ペラゴディニウム)」を取り出し、実験室で育てていました。

そしてその培養液の中から、新たなウイルス「PelV-1」を発見したのです。チームはこのウイルスの姿や性質をくわしく調べはじめました。

次ページそのウイルスはエネルギーを作る遺伝子を持っていた

<

1

2

3

>

人気記事ランキング

  • TODAY
  • WEEK
  • MONTH

Amazonお買い得品ランキング

スマホ用品

生物学のニュースbiology news

もっと見る

役立つ科学情報

注目の科学ニュースpick up !!