なぜタバコで大腸炎が軽くなるのか?
潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症が起こる病気です。
激しい下痢や血便が続き、日常生活に大きな支障をきたす難病で、患者数は年々増えています。
原因ははっきり分かっていませんが、免疫のバランスの乱れや腸内環境の変化が関係していると考えられています。
不思議なことに、昔から「喫煙者は潰瘍性大腸炎になりにくい」「禁煙すると症状が悪化する」という現象が知られていました。
健康に悪いはずのタバコが、この病気に関しては“保護的”に働くのです。
しかし、その理由は長い間わかりませんでした。
今回、研究チームは潰瘍性大腸炎の患者84人から便や唾液、腸の粘膜サンプルを集め、さらに病気を再現したモデルマウスを使って詳しく調べました。
その結果、驚くべきことが分かりました。
まず、喫煙者の便には「芳香族化合物」と呼ばれる成分が多く含まれていました。
これはヒドロキノンやカテコールといった物質で、タバコの煙にも含まれている成分です。
この芳香族化合物が腸内に入ると、腸の細菌バランスを変える働きがあることが判明しました。
特に変化したのが、大腸の粘膜に直接付着している細菌たちです。
喫煙者の腸では、なんと「口の中に住んでいる細菌」が大腸に増えていたのです。
普段は口腔内にしかいないはずの細菌が、大腸に居場所を広げていたのです。
この一見奇妙な現象が、病気の症状をやわらげるカギになっていました。