極左と極右は同じ香りがする

世の中には、あまりにも考え方が違いすぎて、まるで水と油のような関係になってしまう組み合わせがあります。
たとえば、スポーツではライバルチーム同士、学校ならクラスの優等生と不良グループ、そして政治の世界なら「極端な左派(極左)」と「極端な右派(極右)」がまさにそれです。
お互いが互いを否定し合い、時には激しく攻撃し合う──。
そんな状況は、今やニュースやSNSでもよく見かける光景になっています。
実際、SNSの普及によって人々の意見が瞬時に共有されるようになると、議論がヒートアップし、より両者の間に「超えられない壁」が生まれてしまうことも増えました。
比喩的にいえば、磁石のN極とS極が互いに引き合うのとは逆に、思想が違いすぎてお互いを強く反発し合うわけです。
ところが、昔から一部の政治学者や社会学者は、まったく逆のことを言ってきました。
彼らは、「実は政治的に一番端っこにいる人同士は、考え方が違うようでいて本質的にはよく似ている」と主張しているのです。
この不思議な考え方は、ちょうど馬蹄(ホースシュー)の両端が互いに近づいていることに例えて、「ホースシュー・ポリティクス(蹄鉄理論)」と呼ばれています。
たとえば、有名な心理学の実証では、イデオロギーの方向(左/右)よりも、強度(どれだけ強く信じるか)が共通のふるまいを生むことが繰り返し報告されています
さらに同じグループの総説は、心理的な苦痛の高さ、世界を白黒で見る単純化、過度な確信(自信過剰)、異なる集団や意見への寛容性の低下という“極端さの共通プロファイル”を整理しており、左右端の似姿を理路整然と描きます。
加えて、陰謀論に傾きやすい心性は左右の“端”で強まりやすいというの関係が、26か国の大規模研究で確かめられています。
つまり、「極端に右寄り」と「極端に左寄り」の人々は、意見は逆でも、その思考や行動パターンは案外そっくりだ、ということを意味しています。
とはいえ、これはあくまで長年議論されてきた仮説のひとつで、生物学や脳科学レベルでは十分な証明が行われていません。
もし「思想の極端さ」そのものが、私たちの脳の動きを根本的に変えているとしたら?
政治的に過激な人の脳の働きが、本当に左右で似ているとしたら?
これは、社会的にも非常に重要で興味深い疑問です。
そこで今回の研究チームは、こうした疑問を解くために実験を実施しました。
実際に極端な思想を持つ人たちの脳の動きを計測することで、「極端な考え」が脳内で何を引き起こしているのか、また「両極端の人々は本当に脳レベルで共通しているのか」を明らかにしようとしたのです。
本当に、正反対のイデオロギーを持つ人々が、脳内で同じリズムを刻んでしまうような現象が起こり得るのでしょうか?