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生きたメタル/ Credit: Binghamton University(2025)
technology

液体金属とバクテリアを融合させた「生きたメタル」を開発

2025.11.07 07:00:34 Friday

米ビンガムトン大学(SUNY-BU)の研究チームは、液体金属とバクテリア(細菌)の芽胞(がほう)を融合させた、これまでにない“自己修復型”の導電材料を作り出すことに成功したと発表しました。

この新素材は、単なる電子回路の材料ではありません。

まるで「生きている」かのように自己修復し、環境に応じて機能を切り替える柔軟性まで備えています。

次世代のウェアラブル機器や、人体と直結する医療デバイスを大きく変える存在として期待されます。

研究の詳細は2025年10月24日付で科学雑誌『Advanced Functional Materials』に掲載されました。

‘Living metal’ could bridge biological and electronic systems https://techxplore.com/news/2025-11-metal-bridge-biological-electronic.html
Living Liquid Metal Composites Embedded with Electrogenic Endospores for Next-Generation Bioelectronics https://doi.org/10.1002/adfm.202521818

液体金属×細菌芽胞のイノベーション

一般的な電子回路は壊れやすく、微細なひび割れや変形、酸化によって簡単に性能が落ちてしまいます。

従来ですと、壊れた配線は交換や修理が必要で、「自己修復」する素材は夢のような話でした。

しかし、研究チームが開発した「生きたメタル(Living metal)」は、その常識を覆します。

彼らが使ったのは、ガリウムとインジウムの合金という常温の液体金属と、「枯草(Bacillus subtilis)」というごくありふれたバクテリアの芽胞です。

芽胞とは、細菌が厳しい環境で自らを守るためにとる“休眠カプセル”のような状態のこと。

極度の乾燥や高温、薬品にも耐えられるため、長期間不活性のまま保存され、必要なときだけ“発芽”して活動を再開できます。

この芽胞を液体金属の中に組み込むと、驚くべき現象が起こりました。

液体金属はふつう、空気や水に触れると表面に「酸化膜(ガリウム酸化物)」ができ、電子の流れが妨げられてしまいます。

しかし、芽胞の表面にある特殊な化学構造が、酸化膜と強く結びつき、その膜を破壊する力が生まれました

その結果、液体金属同士が自動的に“ブリッジ(架け橋)”を作り、途切れた導電路を自らつなぎ直したのです。

実際に、チームがマイクロクラック(微細な亀裂)を人工的に作った複合材料を観察すると、数分から数十分のうちに金属が自発的に流れ込み、傷が目に見えて修復されていきました。

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液体金属だけでは膜によって通電路を遮断しますが、芽胞が膜を破壊することで通電路を繋ぎ直す/ Credit: Seokheun Choi et al., Advanced Functional Materials(2025)

芽胞が「発芽」して活動状態になると、さらにすごいことが起きます。

発芽した細菌は“発電性細菌”として、自ら電子を生み出し、材料全体の導電性を飛躍的に高めたのです。

その結果、この“生きたメタル”の導電性はバルク金属に匹敵し、しかも自己修復機能を備えた「動的な」導電回路となりました。

次ページ生きたメタルが切り拓く未来

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