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現金給付が低・中所得国にもたらすメリットとは? / Credit:Canva
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現金給付は低・中所得国の「母子の健康増進」に効果があると判明

2025.11.11 11:30:44 Tuesday

日本では、政府による現金給付や生活扶助に対して、その是非や効果について大きな議論が巻き起こります。

経済的な支援は困っている人の生活を助けるものの、本当に長期的な幸福や健康につながるのか、賛否は分かれがちです。

では、世界に目を向けたとき、現金給付のメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。

アメリカのペンシルベニア大学(The University of Pennsylvania)の研究チームは、低・中所得国で実施された大規模な政府主導の現金給付プログラムの効果を明らかにしました。

現金給付は、母子の健康や子どもの予防接種など、多様な健康指標を大きく改善したのです。

この成果は2025年11月10日付で『The Lancet』誌に掲載されています。

Cash transfers boost health in low- and middle-income countries, data reveal https://medicalxpress.com/news/2025-11-cash-boost-health-middle-income.html
The effects of government-led cash transfer programmes on behavioural and health determinants of mortality: a difference-in-differences study https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736%2825%2901437-0/abstract

現金給付が国にもたらす効果とは?

「現金給付」という言葉には、緊急時の「お助け」や貧困対策というイメージが強く結びついています。

多くの国で政府が主導する現金給付プログラムは、極度の貧困状態にある人々の生活を支え、社会の安定や機会の平等を促す柱の一つとなっています。

実際、世界の低・中所得国では20%以上の人々が1日3.65ドル未満で暮らしており、7億人が1日2.15ドル未満の「極度の貧困」に直面しています。

新型コロナウイルスの流行以降、この傾向はむしろ悪化しており、貧困層の拡大が世界的な課題となっています。

これまで現金給付の効果については、多くの国で「受給者個人」レベルの調査が行われ、就学率や栄養状態、家庭の経済的安定などへの好影響が確認されてきました。

しかし、「国全体」としての健康効果、特に非受給者も含めた社会全体への影響については、十分に検証されてきませんでした。

そこで、ペンシルベニア大学の研究チームは、37の低・中所得国、延べ200万件以上の出生データと約100万人の5歳未満児のデータをもとに、2000年から2019年までの現金給付プログラムの効果を徹底的に分析しました。

このうち20カ国は、調査期間中に大規模な政府主導の現金給付プログラムを新たに導入しています。

分析には「差分の差分法」と呼ばれる手法を用い、現金給付プログラムの導入前後でどのような変化が起きたか、またプログラムが導入されなかった国と比べてどの程度の違いがあったかを、時系列に沿って詳細に評価しました。

焦点となったのは、妊婦の早期受診、医療施設での出産、避妊の利用状況、母乳育児、ワクチン接種、栄養状態など17項目にわたる母子保健・児童健康の指標です。

(今回の研究は、同チームが2023年に発表した研究の調査に基づいており、その研究では現金給付が女性と子供の死亡率の大幅な低下に繋がったことが示されています)

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