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高地では赤血球が糖を吸収し、糖尿病を予防する

2026.02.28 12:00:41 Saturday

マラソン選手などが「高地トレーニング」をするのは、空気が薄い環境に体を慣らして、持久力を伸ばすためです。

この「空気の薄さ」は、運動能力だけでなく、身体の健康にも関係しているかもしれません。

実は、標高の高い場所に住む人々ほど、平地で暮らす人に比べて糖尿病にかかるリスクが低かったり、血糖値の指標が良好だったりすることが、複数の疫学研究で報告されているのです。

しかし、「なぜ空気が薄い環境に行くと血糖値が下がるのか」という具体的な理由は、これまで多くの研究者を悩ませてきました。

この謎について、アメリカのグラッドストーン研究所(Gladstone Institutes)のイーシャ・ジェイン博士(Isha H. Jain)らの研究チームは、マウスを用いた実験により、「低酸素状態」になると血液の主役である「赤血球」が驚くべき変化を遂げることを突き止めました。

酸素を運ぶ役割で知られる赤血球は、低酸素環境下では、血液中の過剰な糖を自ら積極的に取り込む「糖のスポンジ(吸収源)」として機能し、全身の血糖値を下げる能力を持っていたのです。

私たちの体の中を流れる身近な細胞が、実は血糖調節の鍵を握っていたというこの発見は、糖尿病における将来の新しい治療戦略を考える上で重要な一歩となるかもしれません。

この研究の詳細は、2026年3月3日付で科学雑誌『Cell Metabolism』に掲載されています。

Red blood cells serve as a primary glucose sink to improve glucose tolerance at altitude https://doi.org/10.1016/j.cmet.2026.01.019

糖はどこへ消えた?高地で暮らすと下がる血糖値の謎

標高の高い地域で暮らす人々は、なぜか糖尿病になりにくい。

この現象はチベットやアンデス山脈など、世界各地の調査でたびたび報告されてきました。

さらに人間だけでなく、高地に住むネズミや鳥、チベットの豚なども、平地の仲間に比べて血糖値が安定していることが分かっています。

これほど多くの種類で共通して見られるということは、私たちの体には「空気が薄くなると血糖値を下げる」という共通の仕組みが備わっている可能性を示唆しています。

では、体内の糖分はいったいどこへ消えてしまうのでしょうか。

ジェイン博士らは最新の画像診断技術(PET/CT)を使い、酸素が少ない環境(低酸素状態)に置かれたマウスの体内で糖がどこに集まるかを詳細に分析しました。

当初は心臓や肝臓などの大きな内臓が糖をたくさん消費していると予想されていましたが、解析の結果、内臓だけでは増えた糖の消費量の約30%しか説明できないことが判明したのです。

残りの約70%という膨大な量の糖が、内臓以外のどこか、いわば「未知の吸収源」に吸い込まれていることになります。

ここで研究チームが注目したのが、血液の大部分を占める「赤血球(Red blood cells)」です。

空気が薄い場所に行くと、体はより多くの酸素を運ぼうとして、赤血球の数を平時の2倍近くまで増やすことが知られています。

研究チームは、低酸素ではない環境のマウスに赤血球を輸血して血中の赤血球量を増やすと、それだけで血糖値が下がることを確認しました。

逆に、酸素が少ない環境にいても、定期的な採血で赤血球が増えないようにすると、低酸素による血糖値の改善は起きにくくなり、血糖値は平地にいるときに近い水準に戻りました

これらの実験から、赤血球こそが血液中の過剰な糖を回収する「隠れた主役」であったことが示されました。

次ページなぜ赤血球は糖を欲しがるのか?細胞の中で起きる巧妙な戦略

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