400年前の「マスケット銃弾」が最先端ソーラーパネルになった――究極のリサイクル技法
400年前の「マスケット銃弾」が最先端ソーラーパネルになった――究極のリサイクル技法 / Credit: Sytnyk et al., Cell Reports Physical Science (2026)
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400年前の「マスケット銃弾」が最先端ソーラーパネルになった――究極のリサイクル技法

2026.04.16 17:00:22 Thursday

話はちょっと不思議な買い物から始まります。

ドイツのユーリッヒ研究センター(FZJ)の研究者たちが、あるときeBayで「17世紀のマスケット銃の弾丸の破片」を購入したのです。

マスケット銃というのは、火縄銃の仲間のような昔の銃のこと。

つまり彼らが手に入れたのは、400年近く前にヨーロッパのどこかで撃たれたか、あるいは撃たれずに土に埋もれていた、「戦場の遺物」でした。

しかも、届いた弾丸は想像以上にボロボロでした。

長い年月のあいだに炭素の汚れがこびりつき、他の金属の不純物が混ざり込み、表面は酸化して灰白色の被膜でくすんでいます。

普通の感覚なら「こんな汚いもの、何に使うのか」と思うような代物です。

ところが研究者たちは、この汚れきった鉛の塊から、最先端と肩を並べる性能のソーラーパネルを作り上げてしまったのです。

しかもエネルギー変換効率は21%。

これは純度99.999%という極限まで磨き上げられた市販の最高級原料で作ったものと、統計的に区別がつかない水準でした。

いったいどういうことなのでしょうか。

研究内容の詳細は2026年4月15日に『Cell Reports Physical Science』にて発表されました。

Upcycling bullets into solar cells converts lead waste into a green energy source https://doi.org/10.1016/j.xcrp.2026.103207

「鉛」と「太陽電池」という意外な組み合わせ

400年前の「マスケット銃弾」が最先端ソーラーパネルになった――究極のリサイクル技法
400年前の「マスケット銃弾」が最先端ソーラーパネルになった――究極のリサイクル技法 / Credit: Sytnyk et al., Cell Reports Physical Science (2026)

話を理解するために、少し遠回りして「ペロブスカイト太陽電池」というものを紹介させてください。

最近ニュースで耳にすることが増えた、次世代のソーラーパネルです。

このペロブスカイト太陽電池が何を期待されているかというと、従来のシリコン製パネルと違って薄くて軽く、布のように曲げることさえできるという点です。

ビルの壁に貼ったり、衣服や布製品に組み込む応用も構想されていて、将来的には製造コストも安く抑えられると期待されています。

日本でも国家戦略レベルで力を入れている分野です。

ただ、この夢のような技術には一つだけ頭の痛い問題があります。

性能を出すには、今のところ「鉛」が欠かせません。

鉛を使わないタイプも研究されていますが、現時点で高効率なものは鉛系が主流です。

正確には「ヨウ化鉛」という、鉛とヨウ素を化合させた黄色い粉。

しかも中途半端な純度ではダメで、99.999%という超高純度のものが大量に要ります。

業界ではこれを「ファイブ・ナイン」と呼んでいます。

鉛というのは毒性が強い金属です。

鉱山から掘り出して精製するのも、環境への負荷がかなり大きい。

クリーンエネルギーのために毒物を新しく掘り続けるというのは、なんとも皮肉な話です。

そこで研究者たちが目をつけたのが、世界中に大量に眠っている「鉛のゴミ」でした。

実は鉛というのは、私たちの生活のあちこちに紛れ込んでいます。

古くなった車のバッテリー、壊れた電子機器、取り壊された建物の廃材、そして昔の弾薬。

世界全体で見ると、いま使われている鉛の半分以上はすでにリサイクル品で賄われているのですが、それでも捨てられる鉛のうち3割から4割は回収されないまま放置されているのが現状です。

もしこの「捨てられる鉛」を、ソーラーパネル用の超高純度ヨウ化鉛に変換できたら、どうなるでしょうか。

新しく鉱山を掘らずに済むし、毒性のある廃棄物も減る。

クリーンエネルギーの原料不足も解消する。

いいことずくめに見えます。

ただし、言うは易しで、捨てられている鉛というのはたいてい汚れています。

不純物だらけで、そのままでは太陽電池には使えません。

「汚れた鉛を超高純度まで磨き上げる」という難題を、誰かが解かなければなりませんでした。

ここで研究者たちの発想の面白さが光ります。

彼らはあえて一番難しい素材で挑戦しようと決めたのです。

それが400年前の弾丸でした。

論文の中で研究チームは、この弾丸のことを「極めて困難なモデル原料」と表現しています。

要するに「これで上手くいけば、多くの鉛ゴミに応用できる道が開ける」という、ラスボス級の難敵をあえて最初にぶつけたわけです。

普通の研究なら「比較的きれいなサンプルでまず成功させよう」と考えるところを、彼らは逆を行きました。

この腹のくくり方には、研究者としての潔さを感じます。

その潔い挑戦の中身を、次のページでいよいよ具体的に見ていきましょう。

次ページマスケット弾を太陽電池に変える、二段階の錬金術

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