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凄惨なアザラシの死を生んだ『コルク抜き殺人鬼』——真犯人が、ついに姿を現した

2026.05.12 19:00:25 Tuesday

イギリスのセント・アンドリュース大学(St Andrews)などの研究によって、世界最大のハイイロアザラシ繁殖地で40年にわたり原因不明だった赤ちゃんアザラシの大量死の「真犯人」が、同種の成体オスである可能性が高いと示されました。

この地域の赤ちゃんアザラシは口元から胸にかけて、まるでコルク抜きの螺旋のように皮膚を剥がされる、通称「コルク抜き状の傷」を負い死んでしまうことが知られていました。

これまではサメやボートのプロペラの仕業と考えられていましたが、実は同種のオスによる殺害が原因である可能性が浮上しました。

しかしなぜ彼らは、同じ種の赤ちゃんを襲うのでしょうか?

研究内容の詳細は2026年2月4日に『Marine Mammal Science』にて発表されました。

Gray Seal Cannibalism at the Largest Colony in the World, Sable Island https://doi.org/10.1111/mms.70138

砂浜に並ぶ、奇妙な傷の死体たち

砂浜に並ぶ、奇妙な傷の死体たち
砂浜に並ぶ、奇妙な傷の死体たち / Credit:Canva

誰が赤ちゃんアザラシを殺しているのか?

カナダの東海岸から沖へおよそ290キロ。

風と砂しかないような、全長およそ42キロの細長い島があります。

名前はセーブル島。

冬になると、この島では毎年およそ8万頭ものハイイロアザラシの赤ちゃんが生まれます。

世界中のどの繁殖地よりも、ここで生まれる数のほうが多いハイイロアザラシの世界最大の繁殖地です。

ところがこの島には、40年近くにわたって科学者たちを悩ませてきた「未解決事件」がありました。

繁殖期のたびに、大量の赤ちゃんアザラシの死体が見つかるのです。

しかも、その傷のつき方が、どう見ても普通ではありません。

口元のあたりから胸に向かって、ぐるりと螺旋を描くように深い裂傷が走っています。

骨が見えるほどの深さなのに、体のほかの部分にはほとんど傷がありません。

まるでワインのコルク栓を抜くときのように、くるくると「ねじり取られた」ような跡なのです。

あまりに奇妙なこの傷は、いつしか研究者たちのあいだで「コルク抜き状の傷」と呼ばれるようになりました(学術的にはコルクスクリュー〈corkscrew〉と呼ばれます)。

いったい何者が、赤ちゃんアザラシにこんな傷を残しているのか。

1980年代以来、研究者たちは犯人を追い続けてきました。

2つの容疑者、2つのアリバイ

2つの容疑者、2つのアリバイ
2つの容疑者、2つのアリバイ / Credit:Canva

最初に疑われたのは、グリーンランドザメでした。

北大西洋の深海に棲む、体長6メートルにもなる巨大ザメです。

動きはゆっくりですが、大型獲物に噛みついた際、体をひねって肉を切り取るのではないかと推測されていました。

それなら、あの螺旋の傷も説明できる——というわけです。

一見、もっともらしい説でした。

実際この仮説は2010年の論文に書かれ、長らく「有力な答え」として扱われてきました。

しかし、致命的な問題が一つありました。

40年間、このサメがアザラシの赤ちゃんを襲う瞬間を見た人が、誰一人いなかったのです。

しかも近年の研究では、グリーンランドザメには獲物を強い吸引力で口元へ吸い込む「掃除機型」の摂食も確認されています。

つまり「噛みついて体をひねる」という派手な襲撃そのものが、実はあまり確かな根拠を持っていなかったのです。

もう一つの有力な仮説は、ボートのダクト付きプロペラでした。

回転するスクリューを筒で囲んだタイプの推進装置で、その中にアザラシが吸い込まれて巻き込まれたのなら、傷が螺旋状になっても不思議ではありません。

確かに、形は似ています。

ただ、こちらにも無理がありました。

セーブル島の周囲は水深が浅く、大型船にとっては座礁の危険が常につきまとう難所として知られています。

離乳したばかりの赤ちゃんアザラシが、わざわざ沖まで泳ぎ出てスクリューに巻き込まれたというのも、シナリオとしてはかなり苦しい。

つまり、どちらの「容疑者」にも、しっかりとしたアリバイがあったのです。

事件は解決の糸口を失い、棚上げされたまま、年月だけが流れていきました。

その間も、毎年何百もの赤ちゃんが、同じ手口で死に続けていたのに、です。

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