老化したハエは「忘れた」のではなく、記憶反応が別の匂いにまで広がっていた
私たちが何かを覚えるとき、脳の中では特定の神経細胞群がその記憶に関わるようになります。
こうした細胞は「エングラム細胞」と呼ばれ、記憶を思い出すときにも再び活動すると考えられています。
今回、研究チームは、加齢による長期記憶の低下が、このエングラム細胞を作れなくなることで起きるのか、それとも別の問題で起きるのかを調べました。
実験に使われたのはショウジョウバエです。
ショウジョウバエは、ある匂いをかいでいる最中に電気ショックを受けると、その匂いを避けるようになります。
この訓練を一定の間隔を空けて繰り返すと、長期記憶が形成されます。
研究チームは、若いハエと老化したハエにこの訓練を行い、長期記憶に関わるエングラム細胞が作られるかを調べました。
すると、老化したハエでもエングラム細胞は若いハエとほぼ同じように形成されていました。
さらに、その細胞を人工的に活性化すると、老化したハエでも回避行動が起こりました。
つまり、老化したハエは記憶を担う細胞を作れなくなっていたわけではなく、その細胞も機能していたのです。
では、何が問題だったのでしょうか。
違いは、記憶を思い出すときに現れました。
若いハエでは、電気ショックと結びついた匂いを提示したときだけ、エングラム細胞が強く反応しました。
ところが老化したハエでは、ショックと結びついた匂いだけでなく、ショックと結びついていない匂いや、新しい匂いにもエングラム細胞が反応してしまったのです。
行動実験でも同じ傾向が見られました。
若いハエは学習した匂いを避ける一方で、無関係な匂いには強い回避を示しませんでした。
しかし老化したハエでは、ショックと結びついていない匂いや、新しい匂いにまで回避反応が広がっていました。
これは、老化したハエが「危険な匂いを忘れた」のではなく、危険な匂いに結びついた記憶反応が、別の匂いにまで広がっていたことを示しています。
では、なぜ老化したハエでは記憶の境界がぼやけてしまうのでしょうか。




















































