圧倒的な濃度の金

伊豆諸島の有人島として最南端に位置する青ヶ島の東の海底に、巨大な火口がぽっかりと口を開けています。
「東青ヶ島海丘カルデラ」と呼ばれる、長さ約7.5キロメートル、幅約6.5キロメートルの水没した火山のくぼみです。
この火口の底には、「海底の熱い噴水」とも言うべきものが存在します。
マグマに温められた海水が地下を巡るうちに、岩石からさまざまな金属を溶かし込みます。
その金属たっぷりの熱水が海底に噴き出し、周囲の冷たい海水と出会った瞬間、溶けていた金属が一気に沈殿する。
この噴き出し口が「熱水噴出孔」です。
そのうち、黒い鉱物の粒子を煙のように噴き上げる煙突状のものが「ブラックスモーカー」と呼ばれます。
この熱水域が発見されたのは2015年のこと。
過去の調査で研究者たちが海底の岩石を調べたところ、金の濃度は岩石1トンあたり最大275グラム、平均でも102グラムに達していました。
これらの金濃度は圧倒的でした。
世界各地の同じタイプの海底鉱床130カ所のデータを集めると、金の濃度はおおむね1トンあたり0.01〜43グラムの範囲に収まります。
東青ヶ島は、その範囲をはるかに飛び越えていました。
論文は、既存のデータの範囲を外れる非常に高い値だと説明しています。
ただし、ここまでの調査で見つかっていたのは、あくまで目に見える金の粒でした。
ここで研究者たちは、あることを疑います。
この海底には、目に見える金のほかにも、まだ誰も気づいていない「見えない金」が隠れているのではないか——と。
手がかりは、「愚者の金」として知られる黄鉄鉱という石そのものにありました。
黄鉄鉱は、海底の熱水がつくる鉱物の中で、もっともありふれた存在として知られています。
そして金鉱床の世界では昔から、「見えない金」がこっそり潜むなら、まずこのありふれた石の中だ、ということが知られていました。
言ってみれば「愚者の金」は、細部まで見抜ける目を持つ者にとっては、本物の金を含むこともある「チャンスの鉱物」なのです。
けれど、この東青ヶ島の黄鉄鉱の「内部」に本当に金が潜んでいるのかは、まだ誰も確かめていませんでした。
そこで今回研究者たちは、水深700メートルを超える海底へ深海探査機を送り込み、火口に点在する熱水の丘やブラックスモーカーの煙突から岩石を採取しました。
そして持ち帰った黄鉄鉱の粒を、ごく微量の金まで、深さ方向に追って測れる特殊な分析装置にかけました。
結果は驚くべきものでした。
黄鉄鉱の中に含まれる金の濃度は、もっとも高いもので重量のおよそ1.9%に達し世界中の海底鉱床で報告されたどの黄鉄鉱の値よりも高い数字でした。
しかも、分析対象となった135か所すべてから、例外なく金が検出されました。
こうして東青ヶ島海丘カルデラには、見えている金だけでなく、見えない金が「愚者の金」の中に高濃度で含まれていたことがわかったのです。
































