タクシーと救急車の運転手はアルツハイマー病で死亡しにくい
今回の研究の出発点となったのは、脳にある「海馬」です。
海馬は記憶に重要な領域として知られていますが、自分がどこにいるのかを把握したり、目的地までの道筋を頭の中に描いたりする「空間ナビゲーション」にも深く関わっています。
そしてアルツハイマー病では、この海馬が比較的早くから萎縮していきます。
そこで研究者たちが注目したのが、過去に行われたロンドンのタクシー運転手の研究でした。
ロンドンのタクシー運転手は、膨大な道路やランドマークを覚え、目的地に応じてルートを組み立てる必要があります。
過去の脳画像研究では、こうした運転手の海馬に構造的な変化が確認されていました。
ならば、日常的に空間ナビゲーションを繰り返す仕事では、アルツハイマー病による死亡も少なくなっている可能性があるのではないか。
研究チームは、この疑問を大規模な死亡統計から確かめることにしました。
分析したのは、米国で2020年から2022年に死亡し、職業情報が確認できた8,972,221人です。
研究者たちは443職種を比較し、中でも毎回異なる目的地へ向かい、その場で経路を判断する機会の多いタクシー運転手と、救急救命士を除く救急車運転手・同乗員に注目しました。
さらに、同じ輸送関係の仕事でも比較的決められた経路を利用するバス運転手、航空機パイロット、船長とも比較しました。
アルツハイマー病は高齢になるほど増えるため、年齢のほか、性別、人種・民族、教育歴などの違いも統計的に調整しています。
その結果、タクシー運転手と救急車運転手は、443職種の中でアルツハイマー病による死亡割合が最も低い2職種となりました。
では、この2つの仕事では具体的にどれほど低かったのでしょうか。
より詳しい結果を次項で見ていきます。



































