満席状態のスタジアム
量子力学には「パウリの排他原理」という理論があります。
これは簡単にいうなら、電子には指定席があって、1つの席に同じ粒子が2つ同時に座ることはできない、ということを言っています。
そして、この原理からは、非常に興味深い事実が予想できるのです。
通常、私たちが物質を見るとき、それは物質にあたって反射した光を見ています。
これはもっと細かい世界で見た場合、光子が原子にぶつかることで原子がビリヤードのボールのように弾かれ、受け取った光のエネルギーを散乱させているから、ということができます。
しかし、「パウリの排他原理」に従って原子が身動きできないほど、みっしりと周りの席を埋めてしまうと、原子は動けないために光の散乱を起こさなくなるというのです。
このイラストは、アリーナの座席をたとえに今回の研究の内容を説明しています。
イラストの左側では、座席に隙間があります。この状態だと光の当たった原子は、空いている席に押された際に振動して、光を散乱させます。
しかし、もし右側のようにぎっしり席が埋まった状態で原子が配置されていた場合、原子は身動きできないため、端にいる原子以外は、光が当たっても散乱を起こさなくなるというのです。
光が散乱しないということは、原子が透明になってしまうということです。
これは30年以上も前に、MITの研究者によって予言されていて、パウリ・ブロッキング効果の一例だとされています。
ただ理論的には証明されていても、現実でそんな現象を観察することは困難でした。
しかし、現代ではレーザーを使って原子を極めて絶対零度に近い、マイクロケルビンというレベルまで冷却することが可能になって来ているため、研究チームは実際にこの効果を観察する実験を行ったのです。