原子を極端に冷やしたり押しつぶしたりすると、光を散乱させる能力が抑制されることが新しい研究で確認された
原子を極端に冷やしたり押しつぶしたりすると、光を散乱させる能力が抑制されることが新しい研究で確認された / Credit: Christine Daniloff, MIT
quantum

「原子を透明にする現象」が実験で観測される

2021.11.22 Monday

通常、私たちは原子にぶつかった光(光子)が散乱し、目に届くことで物質を見ることができます。

ところがMITのある研究者は30年前に、原子を超低温状態で、隙間なく高密度に配置したとき、光子がぶつかったエネルギーを散乱させる余地がなくなるため、原子が透明化するという予想をしていました。

そして今回、MITの研究チームはレーザーを使った超低温技術で実験を行い、実際に原子が光の散乱を38%も低下させるのを確認したと報告しています。

チームの考えでは、完全な絶対零度を実現できた場合には、原子は完全に光を散乱できなくなって見えなくなるといいます。

この研究の詳細は、11月18日付で、科学雑誌『Science』に掲載されています。

How ultracold, superdense atoms become invisible https://news.mit.edu/2021/atoms-ultracold-scatter-light-1118 MIT Physicists Use Fundamental Atomic Property To Turn Matter Invisible https://scitechdaily.com/mit-physicists-use-fundamental-atomic-property-to-turn-matter-invisible/
Pauli blocking of light scattering in degenerate fermions https://www.science.org/doi/10.1126/science.abi6153

満席状態のスタジアム

量子力学には「パウリの排他原理」という理論があります。

これは簡単にいうなら、電子には指定席があって、1つの席に同じ粒子が2つ同時に座ることはできない、ということを言っています。

そして、この原理からは、非常に興味深い事実が予想できるのです。

通常、私たちが物質を見るとき、それは物質にあたって反射した光を見ています。

これはもっと細かい世界で見た場合、光子が原子にぶつかることで原子がビリヤードのボールのように弾かれ、受け取った光のエネルギーを散乱させているから、ということができます。

しかし、「パウリの排他原理」に従って原子が身動きできないほど、みっしりと周りの席を埋めてしまうと、原子は動けないために光の散乱を起こさなくなるというのです。

パウリブロッキングの原理をアリーナの席で例えたイラスト
パウリブロッキングの原理をアリーナの席で例えたイラスト / Credit:MIT News,How ultracold, superdense atoms become invisible(2021)

このイラストは、アリーナの座席をたとえに今回の研究の内容を説明しています。

イラストの左側では、座席に隙間があります。この状態だと光の当たった原子は、空いている席に押された際に振動して、光を散乱させます。

しかし、もし右側のようにぎっしり席が埋まった状態で原子が配置されていた場合、原子は身動きできないため、端にいる原子以外は、光が当たっても散乱を起こさなくなるというのです。

光が散乱しないということは、原子が透明になってしまうということです。

これは30年以上も前に、MITの研究者によって予言されていて、パウリ・ブロッキング効果の一例だとされています。

ただ理論的には証明されていても、現実でそんな現象を観察することは困難でした

しかし、現代ではレーザーを使って原子を極めて絶対零度に近い、マイクロケルビンというレベルまで冷却することが可能になって来ているため、研究チームは実際にこの効果を観察する実験を行ったのです。

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