原子の透明化
今回の研究者であるMITのケッタール(Ketterle)氏の考えを、おおざっぱに説明するならば、それは原子がほぼ停止状態に凍結して、十分狭い空間に隙間なく押し込めた場合、原子は速度や位置をシフトさせる余地がなくなり、電子殻が埋まった状態の電子のように振る舞う、というものです。
この状態の時、原子は光を散乱させることさえできなくなり、透明になるといいます。
ただ、実際にこれを実験しようとした場合、問題なのは原子を絶対零度近くまで冷却することよりも、身動きできないほど密な状態にするということです。
そこまで高密度の原子の雲を作り出すことは、これまでできなかったため、予想はあっても実験で確認することができていなかったのです。
密度が十分に高くなければ、いくら低温にしても原子は、空いたスペースに移動してしまい光を散乱させることができます。
研究チームはまず、3つの電子と3つの陽子、3つの中性子を持ったリチウム原子の同位体を使い、この原子の雲を20マイクロケルビンまで冷却しました。
これは星間空間の温度の約10万分の1です。
次に、密集したレーザーを使用してこの極低温原子を圧縮して密度を高めていきました。
チームによると、このときの密度を測定した値は、1立方センチメートルあたり約1兆原子に達していたといいます。
次に、研究チームは別のレーザービームを光子が原子を加熱したり、密度を変化させないよう最新の中止を払って、「冷却した密な原子の雲」に照射しました。
そして、特別なカメラを使い散乱した光子の数をカウントしたのです。
光子は非常に微弱な光ですが、チームの用いた装置は、それを塊として見ることができるほど非常に敏感です。
こうして慎重な実験を行った結果、約20マイクロケルビンで、原子は通常時より38%も光の散乱が減少していることを確認したのです。
これは原子が38%暗くなり、透明な状態に近づいていたということです。
超低温の原子は、量子状態に近づき、普通では見ることのできない特殊な振る舞いをします。
チームはこうした影響を除外して今回の結果を得るために、数カ月を費やしたといいます。
今回の結果は、38%散乱が減ったというだけなので、原子が透明になったと呼ぶには大げさかもしれません。
しかし、今回の結果から研究チームは、もし完全な絶対零度で今回の実験が行えた場合、蜜な原子は完全に見えなくなる可能性があると述べています。
こうした成果は、光の散乱がデータに干渉する問題となる量子コンピューターの制御において、役立つ可能性もあるとのこと。
低温の原子の世界には、まだまだ観測されていない不思議な現象が潜んでいるようです。