鮮明な撮影を可能にする超小型カメラ
今回研究されている超小型カメラ(マイクロカメラ)は、ハードウェアの設計と画像処理ソフトを共同で設計することで、病気の診断や治療目的で利用される医療用ロボットの目に利用することが想定されています。
現在、体内の問題を診断するためには、胃カメラや内視鏡などを利用しますが、これは患者に苦痛が伴ったり、侵襲的な方法で体に潜り込ませなければならないなどの問題がありました。
しかし、超小型の医療用ロボットに十分な精度を持ったカメラを搭載することができれば、体内を画像診断する医療は大きく改善されることになります。
通常、カメラの撮影はガラスやプラスチック製の曲面レンズを使い、光を曲げて焦点を合わせています。
そのため、必然的に視野が狭くなる超小型カメラでは、撮影対象の像を正確に結ぶことが困難になり、非常にピンぼけした曖昧な画像しか撮影することができませんでした。
今回の研究は、こうした超小型カメラの光学システムを改良して撮影能力を大幅にアップデートさせました。
新しい光学システムは、「メタサーフェス(metasurface)」と呼ばれる技術を利用しています。
メタサーフェスとは、極薄のガラスにナノサイズの構造を埋め込んで、入ってくる光の波を制御して情報を読み取る技術のことで、まるで小さなコンピュータチップのようなカメラレンズを製造することができます。
今回の研究が開発したメタサーフェスは、わずか0.5mm四方という塩粒サイズのチップの中に、ナノサイズの円柱160万本が埋め込まれています。
この円柱が光に対するアンテナのように機能して、狭い視野から入ってくる光波を成形します。
円柱の大きさはHIVウイルスとほぼ同サイズで、これを正しく機能させるためには円柱1つ1つを的確な形状にデザインする必要があります。
つまり、160万個も配置された円柱はそれぞれに固有の形状があるのです。
とても人間の手でデザインすることはできないので、チームはこれを機械学習を利用したアルゴリズムによって、入射光とうまく相互作用する組み合わせを設計しました。
そして、これまでにないフルカラーの最高品質画像を撮影する、メタサーフェスカメラが誕生したのです。
下の画像は、従来の超小型カメラと今回開発されたカメラの撮影画像を比較したものです。
左が以前にチームが開発したマイクロカメラの画像。右が今回開発されたメタサーフェスカメラの画像です。
一目瞭然なほど、画像が鮮明化しているのがわかります。
これにより、超小型カメラが自然光でパフォーマンスの高い撮影を行うことが可能となったのです。
このメタサーフェスのレンズは、体積が自身の50万倍を超える従来のカメラレンズで撮影した場合と同等のクオリティを実現していました。
このレンズの設計を可能にしたのは、複雑な光の相互作用を「大量のメモリと時間」を費やして計算シミュレーションした成果だといいます。
「この超小型レンズが実用化されれば、スマホの背面に3台のカメラレンズを配置する必要はなくなります」と今回の研究チームの1人、プリンストン大学コンピュータサイエンス学科のフェリックス・ハイデ助教授は語ります。
「こうした小型カメラは表面全体に配置することで超高解像度のカメラにすることができます。
つまり、スマートフォンの背面全体が1台の巨大なカメラになるのです」
この新しい超小型カメラ技術は、医療などの他にも私たちの身近な場所で活躍する可能性があるようです。