老化を予防する「抗老化ワクチン」とは?
意外かもしれませんが、人間の体内にある細胞の老化度は同じではありません。
多くの動物は受精卵という単一の細胞に起源を持ちますが、成長後に受けるさまざまな刺激やストレスにより、ある人はすい臓の細胞が先に老化したり、また別の人は脳細胞が先に老化することで、糖尿病やアルツハイマー病など異なる病状となって表れてくるのです。
また老化細胞は単独で問題を引き起こすだけでなく、周囲にサイトカインを分泌することで慢性的な炎症の原因となり、少数の老化細胞のせいで臓器全体の機能低下や、がんを引き起こやすくなってしまいます。
そのため「万病の陰には老化細胞が潜んでいる」と言えるでしょう。
そこで今回、順天堂大学の研究者たちは、老化を治療するための「抗老化ワクチン」を開発することにしました。
研究ではまず、老化したヒトの血管内皮細胞で働く遺伝子が網羅的に調べられ、正常な若い細胞と比較されました。
すると、GPNMB(糖タンパク質非転移性黒色腫タンパク質B)と呼ばれる特殊なタンパク質が、老化したヒトの血管内皮細胞の表面に豊富に存在すると判明。
また興味深いことに、GPNMBは動脈硬化を起こしたマウスの血管や内臓脂肪にも豊富に含まれていることもわかりました。
そこで研究者たちはGPNMBの一部を模倣した構造を持つ、抗老化ワクチン(ペプチドワクチン)を作成し、マウスに注射してみました。
するとマウスの免疫細胞はGPNMBを異物として認識し、GPNMBを表面に出すようになった細胞までも一緒に攻撃して排除しはじめました。
結果、老化細胞の排除が進んだことで相対的な若返りが起きて、老いていたマウスにみられた老いの全般的な症状が改善していることが判明。
また太って生活習慣病になっていたマウスに注射したところ、内臓脂肪から老化細胞が除去され慢性炎症が緩和されたことで、糖尿病の改善がみられました。
さらに遺伝的に早く老いてしまう早老症のマウスに対して抗老化ワクチンを使ったところ、寿命全体が増加することも確かめられました。
この結果は、抗老化ワクチンで老化細胞を退治することが、老化そのものや、老化に起因するさまざまな病状の改善し、寿命の延長にも有効であることを示します。