遺伝子治療で鎌状赤血球症を治療することに成功!
鎌状赤血球症は主にマラリアの蔓延している地域にみられる、赤血球がおわん型から鎌型に変形してしまう遺伝病です。
鎌状赤血球症を発症すると、酸素運搬能力が低下して頻繁な貧血を起こすだけでなく、鎌型の赤血球が血管に詰まりやすくなり、血流が止まって臓器が壊死することで、早期の死亡(40代)を引き起こします。
通常、このような生存に不利な遺伝特性は淘汰によって消えていくはずですが、マラリアの蔓延している地域では違いました。
マラリア原虫は赤血球に入り込んで喰い荒らし増殖する性質がありますが、鎌状の赤血球は非常にもろく、マラリア原虫が入り込むと直ぐに崩壊してしまいます。
そのためマラリアは増殖できず、結果として鎌状赤血球を持つ人々はマラリアにかかっても死ににくくなります。
かつてマラリアは非常に死亡率が高い病気であったため、鎌状赤血球の遺伝子を持つことが生存にとって有利でもあったのです。
鎌状赤血球症を引き起こす遺伝子は、人類が病原体と戦うために獲得した、悲しい進化の結果とも言えるでしょう。
しかし現在、マラリアにはキニーネに代表される治療薬の開発が進んでおり毎年の死者は40万人にまで減っています。
一方、鎌状赤血球症に対しては、原因が遺伝子にあるため、根本的な治療法が存在しませんでした。
そこで今回、アラバマ大学の研究者たちは、鎌状赤血球症の人々の遺伝子を書き換えて、正常な赤血球を作れるようにする「遺伝子治療」を試みました。
研究者たちはまず、鎌状赤血球症の被験者35人の骨髄から、血を作る大元の細胞(造血幹細胞)を抜きとり、無害な「レンチウイルス」を使って正常な赤血球を作れる遺伝子を細胞に運び込みました。
そして遺伝子を書き換えた幹細胞を、再び被験者たちの骨髄に戻します。
結果、35人の被験者全員で正常な赤血球が作られるようになり、鎌状赤血球症の症状の多くを数年に渡って解消することに成功します。
この結果は、正常な遺伝子を外部から補給する遺伝子治療によって鎌状赤血球症が治療可能であることを示します。
しかし、ここまで劇的な効果をもたらした「レンチウイルス」とは、いったい何者なのでしょうか?
人間の細胞を的確に認識して感染し、手際よく(副作用も少なく)遺伝子を潜り込ませる様は、普通ではありません。
それもそのはず…現在最も一般的に利用されているレンチウイルスはかつて「HIV-1」と呼ばれた存在だったからです。