マッハで走る電車内で拳銃を撃ったら?
ここでは基礎的な考え方と、奇妙な状況が生まれる特殊なケースをご紹介します。
考えやすいように、次の仮定で話を進めましょう。
- 電車の速度:1000km/h
- 弾丸の速度:1000km/h
拳銃であれば実際にこれくらいの速度ですが、本当の電車はここまで速くありません。
なので、これは電車をとんでもなく加速させた場合の話です。
つまり「未来の高速電車で拳銃を撃った」という思考実験になります。
では最初に、あなたが止まっている電車の中で拳銃を撃った時の見え方を考えましょう。
止まっているあなたが前方に向かって拳銃を撃てば、当然弾丸は1000km/hの速度で遠ざかっていくように見えます。
これはあなた(速度0km/h)と弾丸(速度1000km/h)の差が1000km/hだからです。
では、次にこれを1000km/hで高速移動する電車内で撃ったときを考えてみましょう。
このときあなたは1000km/hで移動していますが、電車内の物体はすべて同じ方向に1000km/hで移動しているので、あなたから見た電車内のすべてのものの相対速度は0km/hです。
そのため、高速電車の中であなたが拳銃を撃ったとしても、あなたから見た弾丸の速度は先ほどと同じく1000km/hであなたから離れていくように見えます。
では、これを地上の傍観者が見るとどうなるでしょうか?
傍観者(速度0km/h)から見ると、あなたと電車は1000km/hで移動しています。
そして先ほど確認したように、あなたが拳銃を撃つと、その弾丸はあなたから1000km/hで離れていくことになります。
つまり地上の傍観者からすると、まずあなたが傍観者から1000km/hで離れていき、さらに弾丸があなたと傍観者から1000km/hで離れていくことになります。
そのため進行方向に拳銃を発射した場合、傍観者から弾丸は1000+1000 =「2000km/h」に見えます。
2倍のスピードで進む弾丸が見えるわけです。
では今度は、電車の進行方向とは逆向きに拳銃を撃った場合を考えてみましょう。
これも先ほどと同じ計算になりますが、傍観者からは、弾丸の速度1000km/hから電車の進行速度1000km/hが引かれることになります。
つまり1000-1000=「0km/h」という計算になり、傍観者から弾丸は止まって見えるのです。
もし電車の最後尾から、電車の後ろに立つあなたに向かって弾丸が撃たれたとしても、この場合弾丸はいつまで経ってもあなたのもとには届かないということになるのです。
そう考えるとなんだかとても奇妙で不思議な感じがしませんか?
これが思考実験の面白さと言えるでしょう。
さて、今回は「相対速度」について電車と弾丸の例から考えました。
後半の思考実験から分かる通り、特定の状況では、相対速度によって奇妙な現象が確認できます。
私たちが日常で感じている当たり前の物理現象でも、それを極端に拡張して考えたとき、とても不思議な状況が生まれることがあります。
アインシュタインはこうした思考実験を光の速度まで拡張することで、相対性理論という偉大な発見をしました。
思考実験はイメージだけで行えるもっとも簡単な実験です。
当たり前と思っているものが奇妙に変化する極端状況をイメージすれば、偉大な発見ができるかもしれません。
ぜひ、いろいろ試してみると面白いでしょう。
進行方向には止まって見えるけど弾丸も落下するので落ちるのが見えるのではないでしょうか