地球からもっとも近い活発なブラックホールの噴火
ブラックホールと一言でいっても、そのサイズや活動状態にはさまざまな違いがあります。
地球に一番近い超大質量ブラックホールは、天の川銀河の中心にある太陽質量の400万倍という「いて座A*」ですが、活発な活動はしていません。
では、地球にもっとも近い活発な活動をする超大質量ブラックホールは何かというと、それは1200万光年離れた位置にある楕円銀河「ケンタウルス座A(Centaurus A)」の中心ブラックホールです。
このブラックホールは、太陽質量の5500万倍という飛んでもない質量を持っていて、現在も活発に活動しています。
ブラックホールの活動とは、物質を精力的に飲み込んで巨大なエネルギー放射を行っているかどうか、という意味です。
ブラックホールが活発に活動すると、飲み込んだ物質の一部を強力な磁場によって極方向へ噴射するジェットと呼ばれる現象を起こします。
これはほぼ光速の勢いで物質を飛ばし、数億年もの時間を掛けて何百万光年も広がる「電波の泡」を成長させていきます。
それはまさにブラックホールの噴煙とでも呼ぶべきものです。
西オーストラリア州に設置されたマーチソン広視野アレイ(MWA)望遠鏡は、今回そんなケンタウルス座Aのブラックホールが放ったジェットの噴煙の全貌を撮影することに成功しました。
MWAは小さなアンテナを4✕4で設置したタイルと呼ばれるものを、数kmの範囲へ256個も設置した電波望遠鏡で、夜空の広い範囲を電波観測できます。
以前の電波観測では、ブラックホールのジェットが電波波長ではあまりに明るすぎるため処理できず、詳細な画像を作ることに制限がありました。
しかし、新しい撮影画像は、これらの問題を克服したといいます。
それは銀河を超えてはるか遠くまで広がる、ジェットの炎を明らかにしています。
映し出されているの電波波長で撮影された、ブラックホールのジェットで飛ばされた物質の作る泡です。
これは数百万光年に渡って広がっていて、ブラックホールから強いエネルギーで吹き出された物質は、数億年を経ても強い電波源となっています。
天体が夜空を占める大きさは、視野角度で表現されます。
この撮影された天体は、地球から見た場合でも夜空を8度に渡って広がっているといいます。
そう言われてもスケール感が湧かないかもしれませんが、これは満月に置き換えると16個分に相当します。
これはつまり、夜空を見上げたとき、こんなサイズで見えているということです。
もちろんこれは肉眼では見ることができず、優れた電波望遠鏡による電波観測でしか見れません。
しかし、地球から1200万光年も離れた天体が、こんなサイズで夜空に浮かんでいると考えると、それがどれだけ途方も無いものなのか想像できるでしょう。
今回の研究成果は、こうした夜空に広い視野で展開される天体の分析や研究を行うために役立てられていくといいます。