毛染めと胎児死亡の関連性
本研究では、日常的に用いることの多い以下の4種類の化学物質について調査されました。
①灯油・石油・ベンジン・ガソリン
②塩素系漂白剤
③殺虫剤・除草剤
④毛髪染め
対象者には妊娠初期と中期のそれぞれにおいて、これらの化学物質を仕事で半日以上使用した頻度を回答してもらい、その後の流産と死産の発生割合との関連を調べました。
ここでは妊婦の年齢、喫煙習慣、病歴、業務時間、業務上の立ち時間の長さなど、死産や流産の発生と関連を持つ要素も考慮して解析されています。
その結果、仕事で毛髪染めを使用することがない妊婦の死産の発生割合は1000人当たり1.6件でした。
しかし、毛髪染めを月に1~3回使用する妊婦では1.9件、週1~6回使用する妊婦では7.7 件、毎日使用する妊婦では8.1件となり、仕事で毛髪染めの使用頻度が高くなるほど死産の発生割合が大きいことがわかったのです。
なお、仕事で毛髪染めを使用している妊婦の割合は、月に1~3回が全体の約9%、週1~6回が約0.6%、毎日使用が約0.4%でした。
また、妊娠初期における毛髪染めの使用頻度は、流産発生と関連性が認められませんでした。
さらに、妊娠判明時に美容師以外の職業であった妊婦の死産の発生割合は1000人当たり3.4件だったのに対し、美容師だった妊婦は5.8件と、他の職業より死産の発生割合が大きい結果となったのです。
死産につながる他の因子を考慮した上で、妊娠判明時の職業を比較しても、美容師である妊婦は死産の発生割合と大きな関連が認められました。
一方で、毛髪染め以外の化学物質(灯油・石油・ベンジン・ガソリン、塩素系漂白剤、殺虫剤・除草剤)については、流産・死産の発生割合と関連性が認められませんでした。
なぜ毛髪染めだけが、それほど死産発生に影響するのでしょうか?
これについては、一般的な毛髪染めに含まれる成分「アニリン誘導体」に原因がある可能性が考えられます。
「アニリン誘導体」は、体内の酸素を運ぶ物質であるヘモグロビンを酸素が運べないメトヘモグロビンに変化させます。
これはメトヘモグロビン血症という、死につながる可能性もある症状を起こすことで知られています。
もちろんこれはあまりに多量に吸引した場合に起きる問題ですが、胎児と大人では影響する分量が異なります。
妊婦の皮膚吸収や吸引で、体内に侵入した「アニリン誘導体」が、胎盤を通して胎児の血中に行こうした場合、危険な可能性があるのです。
これらのメカニズムは仮説であり、厳密な因果関係が証明されているわけではありません。
とはいえ、無視できない関連性であることは確かでしょう。
危険をともなう肉体労働なら、妊娠をきっかけに出勤を控える妊婦さんも多いかもしれません。
しかし、一般的に見て美容師が危険という印象はありません。
そのため、妊娠のかなり後期まで仕事を続ける美容師さんもいるかもしれませんが、そうした人たちは少し注意した方がいい情報かもしれません。