国際目標とは裏腹に、いまだ無くならない死産
はじめに、今回の研究は出生コホート調査のデータ分析から導かれた報告である点に注意してください。
出生コホート調査とは、子どもが生まれる前から成長する期間を追跡して調査する疫学手法のことです。
この調査では、生体試料の採取保存・分析も行いますが、参加者へのアンケートなど質問票を用いた回答データも多く含まれ、必ずしも客観的なデータとは言えません。
本研究は、妊婦の職業上の化学物質の使用やその頻度について、質問票への回答で評価したものであり、血中の化学物質濃度などの客観的な指標を用いた分析結果ではありません。
とはいえ、コホート調査は数十万単位の大規模な人数を長期間にわたって追跡できるところにメリットがあり、集団に潜む重要な傾向を発見できます。
今回用いられた「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」は、2010年度から全国で約10万組の親子を対象に、環境省が大規模かつ長期にわたって調査したものです。
エコチル調査では、母体血や臍帯血、母乳等の生体試料を採取保存・分析するとともに、追跡調査を行い、子どもの健康に影響を与える環境要因を明らかにすることを目指しています。
現在、全世界において毎年約260万件の死産が発生しています。
国際的には「妊娠1000件あたり12件以下」の発生率に抑えることが目指されていますが、残念ながら日本では年間1000件あたり約20件の死産が発生しています。
死産の発生原因を追求し対策することは、少子化が進む現代において早急に進める必要があります。
胎児が死亡することは死産・流産と表現されますが、
・妊娠21週までに赤ちゃんが死亡した場合を「流産」
・妊娠22週以降に子宮内で赤ちゃんが亡くなり、その赤ちゃんを出産した場合を「死産」
として使い分けています。
胎児の死亡原因については、これまで妊婦の年齢、肥満、高血圧、糖尿病、喫煙習慣といった要因が明らかにされていますが、妊婦の化学物質ばく露と死産の関連はよくわかっていません。
女性の社会進出によって、妊婦が仕事を続ける状況は増え続けています。
こうした状況だと、職種によっては妊婦が意図せず、さまざまな化学物質に触れてしまう機会も増えます。
そこで研究チームは、職業上触れることになる化学物質ばく露の頻度と、流産・死産の発生割合の関連性を検討したのです。