脊髄損傷したマウスの8割が歩行可能に!
現在、脊髄損傷が原因で、何百万人もの人が麻痺状態に陥っています。
原因は脊髄にある神経の回復力の乏しさにあります。
多くの神経が通る脊髄はダメージに弱く、損傷部分の前後を上手く繋ぎ合わせることができません。
そこで今回、テルアビブ大学の研究チームは、ヒトの生きた神経細胞とブタの脂肪組織を混ぜ合わせて、「脊椎インプラント」を開発することにしました。
実験ではまず、ブタの脂肪組織から細胞を取り去ってゲル化させたものを用意します。
このゲル化したブタの脂肪組織は内部に微細な空間が作られています。
研究チームはこの微細な空間に、ヒトiPS細胞(万能細胞)を流し込んで、30日間かけて神経細胞に再プログラムさせました。
すると、ゲル化した脂肪組織の内部に、本物の脊髄の内部のようなニューロンネットワークの形成が確認されました。
つまりチームは、ブタの脂肪組織とヒトiPS細胞を組み合わせて、神経回路網を備えた疑似的な脊髄を構築したのです。
脊髄インプラントの準備が整えば、次はいよいよ動物実験です。
といっても、動物たちが脊髄を損傷してくれるのを待つわけにもいきません。
そこで今回は、マウスの背中側の皮膚を切り開き、脊髄の一部を切断しました。
何も処置をしなかった場合、マウスはそのまま半身不随になり、生涯に渡って歩行能力が奪われます。
しかし、切断直後に脊髄インプラントを断面部分に挿し込んだ場合には、なんと100%の確率で脊髄が再接続され、マウスは再び歩けるようになりました。
一方で、何も処置せず、しばらく放置していたマウスから何匹かを選んで再び背中を切り開き、脊髄の瘢痕(傷跡)を切除して、代わりに脊髄インプラントを挿し込んだところ、80%のマウスが再び歩けるようになりました。
損傷直後の脊髄インプラント挿入は急性の(たとえば事故直後の)脊髄損傷を想定し、しばらく放置した後の脊髄インプラント挿入は損傷から何年も経過した脊髄損傷を想定した実験になります。
この結果は、ヒト神経細胞とブタの脂肪組織からなる脊髄インプラントは、急性の損傷の場合は100%、慢性化した損傷の場合でも80%の確率で脊椎損傷を治療し、歩行能力を回復させられることを示します。
さらに歩けるようになったマウスを解剖したところ、生きた人間の神経細胞がマウスの上下の脊髄神経と接続されていることが判明しました。
どうやら人間の神経細胞にも、マウスの脳から来る信号を中継する能力があったようです。