宇宙の歴史を通して見る大規模な銀河の動き
今回の研究の主執筆者であるUMDの天文学者エド・シャヤ(Ed Shaya)氏は、、研究について次のように語ります。
「私たちは宇宙の大規模質量構造を生み出した重力相互作用を逆解析することによって、その詳細な形成史に焦点を当てました」
研究チームは天の川銀河を中心とした、周囲3億5千万光年の領域について数学的な解析手法を用いて、銀河の現在の明るさ・位置・運動に基づいて過去の経路を計算しました。
この計算では、ビッグバン理論の物理法則が適用されていて、銀河は最初、ハッブル膨張率と呼ばれる宇宙の膨張速度に従って広がっていくと考えられています。
しかし時間が経過すると、銀河は周囲の天体の重力的な影響を受けて運動が変化していきます。
ただ宇宙の膨張に伴って散開していくだけではなく、互いに引き寄せあって銀河団やボイド(空洞)と呼ばれる空っぽの領域を形成し、宇宙の大規模構造となるフィラメントやグレートウォールを形成していきます。
こうして銀河は、10億年の間に数百光年という単位で、純粋な宇宙の膨張から逸脱していくのです。
密度が高い領域では、銀河の軌道は非常に複雑になります。
そこでは銀河同士が衝突し、合体することもあります。
上の画像が、天の川銀河を中心に周囲3億5千万光年の範囲(直径7億光年)をシミュレーションした銀河の動きです。
黒い線になっているのが銀河の経路を表し、モヤモヤっとした色分けされた領域は質量分布を示した等高線です。
少し見づらいですが、中心には3DモデルにおなじみのXYZ軸を示した赤青緑の矢印が描かれていますが、この原点の位置が天の川銀河を示しています。
画像の上部に書かれた「Coma(かみのけ座)」は「かみのけ座超銀河団(Coma Supercluster)」を示し、右側に書かれた「Perseus(ペルセウス座)」は「ペルセウス座・うお座超銀河団(Perseus-Pisces Supercluster)」を示しています。
こうしたシミュレーションから銀河の動きを見ると、銀河たちを駆動させている中心的な領域が明らかとなってきます。
研究者が特に興味深く注目しているのは、「Centaurus」と書かれた画像中心付近にある物質と銀河の密度が集中した領域です。
ここは4つの超銀河団を含む非常に巨大な「ラニアケア超銀河団(Laniakea Supercluster)」の中心になっています。
天の川銀河も、このラニアケア超銀河団に属しています。
研究チームはこれが「グレート・アトラクター(Great Attractor)」と呼ばれる宇宙の大規模構造の1つであると考えています。
「グレート・アトラクター(Great Attractor)」とは、私たちの銀河を含めた広大な領域内の銀河たちを、宇宙膨張の勢いに逆らって動かす動力源として予測されている存在です。
しかし、その正体はこれまでわかっていませんでした。
「今回の銀河の軌道計算によって、この謎に包まれた領域が初めて明らかになりました」
ハワイ大学天文研究所の天文学者ブレント・タリー(R. Brent Tully)氏は、そのように説明します。
重要な発見に貢献したこのシミュレーションは、同じ手法によって今後の銀河の動きを予測することもできるといいます。
このシミュレーションの結果では、銀河の動きは結局宇宙の加速膨張が支配しており、100億年後にはほとんどがバラバラになっていくことが示されました。
ただ、局所的には、銀河の合体や合流は続くようです。
実に宇宙の年齢の2倍の期間にわたって銀河の動きを計算したシミュレーション。
なんとも壮大な研究です。
Galaxy Orbits within 8000 km/s from Numerical Action Methods Part IV – INTO THE FUTURE from Daniel Pomarède on Vimeo.