肺から長い首を伝って感染が広がったか
病痕が見つかった化石は、米国モンタナ州南西部で発見された、中生代ジュラ紀後期(約1億5000万年前)のもの。
大型の首長草食恐竜(竜脚類)であるディプロドクス科の未熟個体であり、全長18m、年齢20才前後、名前は「ドリー(Dolly)」と命名されています。
本研究で、ドリーの頸椎(首の骨)3本を調べたところ、大きさ1センチほどの異常な突起が確認されました。
突起の位置やCTスキャンによる分析の結果、これらは呼吸器感染症にともなって形成されたと見られます。
それも、現代の鳥類や爬虫類がよくかかる呼吸器系の病気である「アスペルギルス症」に似ているという。
この病気は、アスペルギルス属の真菌が肺に感染することで生じます。
ドリーの場合、首の付け根にある肺にまず感染し、そこから気嚢(空気の詰まった袋)を介した呼吸によって、首の骨にまで広がったと考えられます。
下図の紺色が肺、青色が気嚢、赤線が感染の広がったルートです。
頸椎に見られた異常突起も、ちょうど気嚢とつながる位置にありました。
研究チームによると、ドリーがアスペルギルス症に似た呼吸器感染症に感染していた場合、咳や発熱、呼吸困難、体重減少など、インフルエンザや肺炎と同様の症状が出た可能性が高いという。
鳥類において、アスペルギルス症は治療しなければ死にいたることがあります。
同じ呼吸器感染が恐竜の体にどの程度の影響を与えたかは不明ですが、ドリーも同じ運命をたどった可能性はありえるでしょう。
研究主任のケアリー・ウッドラフ(Cary Woodruff)氏は、次のように述べています。
「咳や呼吸困難、発熱など、私たちも同じような症状を経験したことがあるはずです。それを踏まえると、ドリーに同情せざるを得ません。
しかし今回の化石は、呼吸器系の病気の進化史を解明する手がかりとなるだけでなく、恐竜がどのような病気にかかりやすかったかをより良く理解させてくれるものです」
この発見により、恐竜が罹患していた病気についての理解が深まることが期待されます。
余談ですが、ドリーはもしかしたら、大きな咳ができなかったかもしれません。
というのも、大型で首の長い恐竜が咳やくしゃみをすると、強大な圧力が長い首を伝って頂上に達し、頭が爆発する可能性が高いのです。
たとえば、映画『ジュラシック・パーク』に、ブラキオサウルスがくしゃみをする名シーンがありますが、実際はできなかったろうと専門家は指摘しています。
なのでドリーの咳も「ゲホゲホ」ではなく、「コホコホ」くらいだったかもしれません。