「原核生物」と「真核生物」の境界線をこえる⁈
新たに発見された超巨大バクテリアは、研究チームにより「チオマルガリータ・マグニフィカ(Thiomargarita magnifica)」と命名されています。
T. マグニフィカの巨大さの秘密は、まったく例のない遺伝物質の配置にあるかもしれないという。
細菌や古細菌などの単細胞生物は「原核生物」に、植物や動物のような多細胞生物は「真核生物」に分類されます。
両者の決定的な違いは、原核生物が細胞内を自由に動き回るDNAを持つのに対し、真核生物は細胞核の中にDNAをパッケージしていることです。
ところが、T. マグニフィカは、他の細菌のように巨大なゲノムを細胞内に自由に浮遊させておらず、真核生物と原核生物の境界を曖昧にしています。
その代わりに、ゲノムは膜に包まれていました。
しかもT. マグニフィカは、1100万個の塩基が並び、1万1000個の遺伝子を形成していたのです。
一般的な細菌は、約400万個の塩基と約3900個の遺伝子を持ちます。
バクテリアなのに「細胞内が区分け」されている
また重要な点として、センチメートル単位におよぶフィラメントは、遺伝物質とリボソームが新しいタイプの”膜に包まれた細胞小器官(membrane-bound organelle)”に区分けされた、個々の細胞であることが示されました。
(※フィラメント:細菌類において、細胞分裂の異常で細胞が分裂せずに伸び続けて長くつながった状態)
5つの細胞から得られたゲノムの塩基配列を解析した結果、細胞分裂と細胞伸長のメカニズムが異なることが明らかになっています。
この驚くべき発見は、生物の2大分岐は結局のところ、それほど大きな違いはないことを示唆するものです。
T. マグニフィカは、10億年以上前に最も原始的な単細胞生物から複雑な生命がどのように進化したかを説明するミッシングリンクとなるかもしれません。
セントルイス・ワシントン大学(WS in St Louis)の微生物学者ペトラ・レヴィン(Petra Levin)氏は「真核生物と原核生物の定義を見直す時期に来ているのかもしれません」と指摘します。
複雑な生命体の起源は、生物学における最も重要な問題の一つですが、まだ明確な答えは得られていません。
ほとんどのバクテリアは小さく単純ですが、中には複雑で、革新的なメカニズムを備えているものもあります。
T. マグニフィカは後者の典型的な例で、大きなゲノムと巨大な細胞サイズ、そして前例のない膜内の遺伝物質の区分けを持っています。
また、踏みつけられたり食べられたり、風に飛ばされたり、波に流されたりしなければ、もっと大きく成長する可能性があるという。
チームは論文内で、こう記しています。
「T. マグニフィカはより高度に複雑な進化を遂げたバクテリアのリストに追加されました。
真核生物のように”膜に包まれた細胞小器官”で遺伝物質を明確に分離する、現在知られている最初で唯一の細菌となります。
つまるところ、この微生物は”バクテリア細胞(bacterial cell)”という新たな概念に挑戦しているのです」