抱き枕の動きが「リラックスできる呼吸のリズム」を誘導
インタラクティブ(相互作用的)な触覚デバイスは、以前から不安の軽減と関係があり、薬を使わずにほぼ即効性のある緩和をもたらす可能性があると指摘されていました。
そこで研究チームは、触覚のリラックス効果を実証すべく、呼吸の動きを模倣した抱き枕を試作。
特別な技術は一切使っておらず、長さ36センチの枕の中に空気で膨張・収縮するエアバッグを入れています。
実験では、129人のボランティアに「これから数学のテストを受けてもらう」と言い、その前後の不安レベルをアンケートで測定しました。
ボランティアは3つのグループに分けられます。
第一の45人のボランティアには、試作品の抱き枕を8分強抱いてもらい、第二の40人にはガイドによる誘導瞑想を聞いてもらいます。
そして残りの44人には実験のコントロール群として、何もせずただ座ってもらいました。
結果、数学のテストを受ける前と後で、コントロール群は不安が増大していたのに対し、抱き枕と誘導瞑想のグループは、同じくらい不安が軽減されていました。
研究主任のアリス・ヘインズ(Alice Haynes)氏は「この抱き枕の利点は、特別な指導を必要とせず誰でも簡単に利用できること」と指摘。
「薬剤や瞑想と違って説明がいらず、使い慣れたものなので、アプリを使ったり、携帯電話や他のデバイスを使う必要もありません」
また、ヘインズ氏によると、抱き枕を使ったボランティアのほとんどは、枕の膨張と収縮に呼吸のリズムを合わせていたという。
「ゆっくりと深い呼吸のリズムは一般に、リラックスに関連する神経系の部分を活性化させるものです」
抱き枕は、使用者の心が和らぐ呼吸リズムを誘導しているのかもしれません。
不安障害は、生涯で約3分の1の人が罹患し、その治療法の多くは、薬剤の導入に重きをおいています。
しかし、薬剤療法には費用がかかる上、しばしば望ましくない副作用をもたらすことがあります。
他方で、今回の抱き枕のような触覚療法は、費用がかからず、副作用の危険性もありません。
「最終的には、抱き枕が不安を抱えている人に、それを軽減する選択肢の一つになれば嬉しい」とヘインズ氏は述べています。