草束を刈ってモズの足場を奪う
”食う-食われる”の関係性は、弱肉強食の自然界にあまねく存在します。
内モンゴル自治区における、ブラントハタネズミ(以下、ハタネズミ)とモズもその一つです。
しかし今回、中国科学アカデミー(CAS)、東北師範大学(NNU)、エクセター大学(UE・英)、フロリダ大学(UF・米)の共同研究で、ハタネズミは、生き延びるためのモズ対策をとっていることが判明しました。
フィールドワークの結果、ハタネズミは、モズが近くにいると、草原に点在する背の高い草束を刈り取る行動を見せたのです。
この草束は茎がしっかりしていて食用には適しておらず、ハタネズミも食べる目的で刈り取ってはいませんでした。
彼らは自分たちの安全を確保するために草を刈っていたのです。
観察を続けると、ある関係性が明らかになりました。
上図のように、ハタネズミが草束を減らすと、モズによる捕食リスクが大幅に減っていたのです。
モズはネズミにとっては天敵となる獰猛な捕食者ですが、非常に小さな鳥です。
そのため、モズは茎のしっかりした背の高い草などをとまり木として利用できます。
これが地上の獲物を狩る際の監視場所として役立つのです。
エクセター大学のダーク・サンダース(Dirk Sanders)氏は「草束の量が劇的に減ることで、モズがそのエリアでの狩りがしづらいと認識するのだろう」と説明。
そのため「食べるわけでもない草を刈る行動は、ハタネズミにとって膨大なエネルギーコストがかかります。しかしそれにより、彼らの生存率は大幅に向上していました」と続けます。
モズが来ないなら、草刈りもやめる
これと別に、研究チームは、特定のエリアにネットを張って、モズを人為的に遠ざける実験を行いました。
すると、モズが頭上にやってこないため、ハタネズミも草を刈り行動をやめたのです。
サンダース氏はこう語ります。
「私たちは、環境変化に対する動物たちの能力を不当に過小評価することがあります。
しかし、ハタネズミたちは捕食者がいなくなったことに応じて、自分たちの取る行動を柔軟に変化させていたのです」
本研究の成果は、野生動物が驚くべき適応力を発揮することを再認識させるものです。
それと同時に、食物連鎖の中のたった1つの種の喪失でさえ、その生息地に予期せぬ変化をもたらす可能性があることを強調しています。
NNUの研究者は「今回の発見は、草原地におけるハタネズミの管理にも応用できる」と指摘。
「背の高い草束を人為的に植えたり維持することで、モズを引き寄せ、ハタネズミの数密度を抑えられるかもしれません」