警察官の個人情報を近隣住民に知らせると犯罪率が低下した
「他人を知ると自分も知られたように感じる現象」を実社会でどのように活用するのか?
研究者たちが目をつけたのは現実世界の犯罪率でした。
ネットを介した実験では、被験者たちは他人の情報を知ると自分も知られたと感じて「正直」になり「嘘発覚を恐れ」て「不正行為を控える」ようになりました。
研究者たちはこれらの変化を、犯罪抑止に使えると考えたのです。
そこで現実世界のニューヨーク市警の協力を仰ぎ、特定地域に勤務する警察官の個人情報を記したカードを住民たちに配布しました。
(※カードに書かれた個人情報は警察官のお気に入りの食べ物、好きなスポーツチーム、憧れているスーパーヒーローなど当たり障りのないものとなっています)
するとわずか三カ月で、カードを配った地域での犯罪率が5~7%減少したことが判明しました。
数字的には少ないように思えますが、同じような成果を出すには警察官による積極的な取り締まり(自宅訪問、職務質問、身体調査、声掛け)を必要とします。
また積極的な取り締まりは一般に地域住民の感情を悪化させ、警察官に危害が及ぶ可能性が増加します。
当たり障りのない警察官の個人情報を住民に配るだけで同じ成果が得られたと考えれば、非常にコストパフォーマンスに優れていると言えるでしょう。
ただ残念なことに犯罪率の抑制効果は効果が出た3カ月後には元に戻ってしまいました。
研究者たちはたった1度のカード配布では限界があり、長期的な成果を得るには定期的なカード配布やその他の手段が必要であると述べています。
しかしそうなると気になるのが心理メカニズムです。
なぜ私たち人類は「他人を知ると自分も知られた」と考えるような本能を持っているのでしょうか?
本能的なものであるならば、進化の過程でこの心理が何らかの恩恵を与えたものでなければなりません。