2つの脳細胞はどんな働きをするのか
チームいわく、脳が特定の記憶を思い出すとき、この境界線での神経活動のピークを「目印」にして、正しい記憶のフォルダを見つけ出すのです。
たとえば、ある記憶を思い出そうとすると、脳細胞が発火します。
記憶システムは、この発火パターンを、境界を区切った位置にある、過去すべての脳細胞の発火パターンと比較するのです。
そして、それに合うものがあれば、そのフォルダを開き、お目当ての記憶を思い出します。
さっくり言ってしまえば、思い出すときの発火パターンの形を、記憶したときの発火パターンの形と見比べているわけです。
脳は記憶をブロックに分けて整理している?
チームは次に、被験者にムービークリップのなかの特定の画像を見たかどうか質問して、この理論を検証しました。
その結果、被験者は、ソフトまたはハード境界の直後に来る映像、つまりは、1つの記憶がパッケージされる時点の映像をより思い出しやすいと判明しました。
またこれと別に、映画のなかの2つのペアの映像のうち、どちらを先に見たかを問うテストも実施。
すると、被験者は、それら2つの映像がハード境界を挟んであらわれた場合、それを正しい順番で思い出すのがより難しいことがわかりました。
要するにこれは、脳が2つの映像を別々の記憶のブロックとして記憶していたことを示唆します。
同じブロック内であらわれるなら、それらは時間的に連続していますが、別のブロックで区切られると、時間的なつながりがりがわかりにくくなるのでしょう。
イベント細胞は「時間」に、境界細胞は「内容」に関係
これらの知見は、境界細胞(ソフトとハード境界に反応)とイベント細胞(ハード境界だけに反応)が2つの役割を担っていることを示唆します。
1つは、記憶を構築している最中に、それらを構造化すること。(言いかえれば、記憶のブロックをつくって、整理している)
もう1つは、記憶ブロックごとの境界を目印にして、ある記憶を思い出すときのインデックスにすることです。
さらにチームは、(ハード境界に反応する)イベント細胞が、脳波のひとつであるシータ波(学習や集中しているときに発生)と共に活性化したとき、見た映像の順番をより正確に記憶できることを明らかにしました。
「ここからシータ波は、エピソード記憶の”時間的な接着剤”の可能性がある」と、チームは指摘します。
つまり、イベント細胞は、シータ波と同期して活発化することで、記憶ブロック間の時間的なリンク(つながり)を形成するようです。
それゆえに、チームは「イベント細胞は、記憶の時間的順番を確立するのに役立ち、境界細胞は、記憶の内容の認識により関与する」と結論しています。
今回の研究からは、私たちが何かを思い出すときに、1つの場面として記憶が塊になっている理由や、「どっちが先に起きたことだったっけ?」とわからなくなってしまう理由がわかってきました。
そしてなかなか複雑な議論でしたが、ここからは「物質である細胞」と「心のものである記憶」との深いつながりも垣間見えてきます。