超簡単なニューラルネットでも花の種類を判別可能と判明!
AI技術の進歩により、脳のネットワークをコンピューター内部で模倣する、ニューラルネットワークが実現しています。
ニューラルネットワークはコンピューターの仮想空間でニューロンとシナプスの動きをシミュレートされたものであり、入力に対して得られる出力を繰り返し評価することで、現実の脳のように最適な接続が形成されると同時に学習が進行していきます。
例えば画像にある車を認識させるようにしたい場合、カメラをネットワークに接続し、繰り返し車の写っている画像と写っていない画像をネットワークにみせ、答え合わせを行う…という過程を何万回、何十万回と繰り返していきます。
すると不思議なことに、学習が進むにつれてネットワークが複雑化していき、初めて見る画像に車が写っているかどうかも判断することが可能になります。
つまりニューラルネットは、生物の脳が学習する仕組みをシミュレートすることで形成される、疑似的な脳と言えます。
ニューラルネットには生物としての特性はありませんが、学習が行われた分野にかんしては無類の強さを発揮します。
たとえば学習済みのニューラルネットワークの判別精度は人間の医師では判別不可能な小さな腫瘍を、画像診断で発見することが可能になっています。
また戦闘機のドッグファイトシミュレーションにおいても、ニューラルネットは人類に対して5戦5勝をあげています。
繰り返しの訓練によって最適な答えを導くように訓練されたニューラルネットは、人間の能力を遥かに超える判断力と判別能力を発揮できるのです。
しかしこれらニューラルネットワークは、一部において弱点がありました。
通常のシステムで使われているニューラルネットワークは現実の存在ではなく、ネットワークの電気活動を疑似的にシミュレートした仮想の存在に過ぎません。
そのためニューラルネットワークを稼働させるためにはネットワークの個々を形成する「ニューロン」「シナプス」そして「電気活動」の全てを常にシミュレートする演算能力が必要となります。
一方で生物の脳は、実体を伴ったネットワークの各部位がリアルタイムで変更できるので、外部の演算システムは必要ありません。
ネットワークの一部を変更する場合でもシミュレーションでは全体の演算をやり直す必要がありますが、実体をともなったネットワークは単に局所的な結合が変わるだけで済みます。
この高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に対応できる性質は非常に有用であり、線虫ではわずか320個の脳細胞のみで摂食から生殖まであらゆる活動を実行可能になっています。
ただ生物の脳と同じ性質を持つネットワークを人工的に現実で作る試みは難航していました。
生物の脳のようなネットワークを再現するには、ニューロンとシナプスのように条件に応じてリアルタイムで接続性を変更する必要があります。
ですが、そのような柔軟な素材を百個単位で用意することは、技術的にも経済的にも困難でした。
しかし今回、ペンシルベニア大学の研究者たちはわずか16個の可変抵抗器をランダムにつなぎ合わせただけの簡素なニューラルネットワークでも、学習が可能であることを示しました。
「可変抵抗器」は条件に応じて電気に対する抵抗を変えられる電子機器です。
研究者たちは、この可変抵抗器の条件に応じて電気の流れやすさを変える性質をシナプスに見立て、ネットワークに対して入力と出力を繰り返し、学習が起こるかを調べました。
結果、この簡素なネットワークは、さまざまなタスクが実行可能であると判明します。
たとえば、花の4つの物理的な測定値(花びら、がく片の長さと幅、葉の形状)を入力すると、その花が3種類のアイリスのうちどれであるかを95%の精度で区別可能であることが示されています。
研究者たちは今後、可変型ネットワークが学習を行える基礎原理を追求していく、とのこと。
今後の世界は、実体をともなったニューラルネットワークとシミュレートされたニューラルネットワーク、そして生物の脳による3つ巴の展開が行われていくのかもしれません。