たった5分で98%の細菌を死滅させる
遠紫外線(Far-UVC)の殺菌効果は、ここ10年の研究で、徐々に明らかにされつつあります。
しかし、遠紫外線を用いたこれまでの実験はどれも小規模で、実生活の環境を模した部屋では行われていませんでした。
そこで今回は、平均的な家庭やオフィスの一室に相当する「縦4.2m×横3.36m×高さ2.26m」の部屋で実験を開始。
実験中は、噴霧器から黄色ブドウ球菌のエアロゾルミストを室内に連続的に放出しました。
黄色ブドウ球菌は、血液や関節、骨、肺、心臓などに深く入り込むと、人体に致命的な影響を与える細菌です。
この菌が選ばれた理由は、新型コロナウイルスよりも遠紫外線に対する感度がわずかに低いからです。
つまり、もし遠紫外線が黄色ブドウ球菌に有効であれば、それより感度の高いコロナウイルスや、その他の細菌およびウイルスにも有効と考えられます。
チームは、室内にただよう黄色ブドウ球菌の濃度が安定したところで、天井灯の紫外線ランプを点灯させました。
アメリカ産業衛生専門家会議(ACGIH)が定める規制値にもとづいた強度で照射した結果、5分以内で室内の黄色ブドウ球菌のなんと98%以上が殺菌されました。
また、追加で菌を噴霧しつづけても、室内の細菌濃度は低レベルで保たれています。
専門家によると、9×9mの室内の空気を清潔に保つには、少なくとも15分ごと(1時間に4回)の換気が必要と言われています。
実用的には、1時間あたり5〜20回の換気がベストとされますが、遠紫外線を用いた今回の結果をこれに換算すると、1時間あたり184回分の換気力に相当するとのことです。
まとめ
研究主任の一人で、コロンビア大学・放射線研究センターのデビッド・ブレナー(David Brenner)所長は、次のように話します。
「遠紫外線(Far-UVC)は、室内空気中の微生物の量を急速にほぼゼロにし、室内の空気を基本的に外気と同じくらい安全にします。
また、遠紫外線ランプは、設置が容易かつ低コストで、人々に特別な指示も必要ありません。
この技術を人が集まる場所で使えば、次に起こりうるパンデミックの防止に役立つと期待されます」
私たちは目下のコロナパンデミックに対し、ワクチンの接種をもって対抗しています。
ところが、ウイルス側は次々と変異種を生み出すことで、ワクチンへの耐性を獲得することが可能です。
しかし、紫外線はウイルスを根本から死滅させるため、ワクチンや薬物治療のように耐性をつけることもないと考えられます。
チームは今後、遠紫外線(Far-UVC)がさらに大きな空間(ライブハウスや空港など)でも同様の効果をもつか、研究を進める予定です。