瞳孔を絞ってピントを合わせやすくする老眼用目薬
人間は物を見るとき、水晶体の変形と同時に、瞳孔の大きさを変えて目に入る光量を調整しています。
そして瞳孔が小さくなると、ピンホール効果(焦点深度が深くなる)によってピントが合わせやすくなります。
小さい穴から景色を見たり、目を細めたりしたときに鮮明に見えるのは、この効果が影響しているからです。
ちなみに、暗い場所では光をたくさん集めるために瞳孔が大きくなりますが、ピントは合わせづらくなります。
「暗い場所で本を読んではダメ」と言われるのは、ピントが合わせづらい状況で目に負担がかかるためなのですね。
つまり瞳孔を小さくすると、上図(a)のように、一時的にピントが合う範囲を広げられます。
逆に瞳孔が大きい状態(もしくは通常状態)だと、上図(b)のようにピントが合う範囲が限られたままです。
老眼の人は、そもそも水晶体の老化によって通常のピント範囲が狭いので、瞳孔を小さくすることで、(b)から(a)のような視力が得られるはずです。
そして新しい老眼用目薬「Vuity」は、瞳孔を小さくする薬です。
有効成分は「ピロカルピン」ですが、これは昔から利用されており、緑内障の点眼薬としても活躍してきました。
Vuityはピロカルピンを老眼用に調整したものなのです。
効果は6時間以上続くため、朝に1回点眼するだけで、その日は老眼の影響が緩和された状態が続くでしょう。
利用した人の中には「老眼鏡の生活には戻れない」と述べる人もいるほど。
とはいえ、副作用があることも忘れてはいけません。
目に入る光量が減少するため、全体的に暗く感じますし、夜間は特に周囲が見えづらいでしょう。
また実験では、5%以上の参加者に頭痛と目の充血が生じました。
Vuityは現在、処方箋のもとアメリカで購入でき、1本の価格は約80ドル(1万500円)となっています。
毎日使っても1カ月近くはもつようです。
Vuityが承認されてからまだ数カ月しか経過していませんが、既にさまざまな科学者が、この分野でさらなる研究を進めています。
将来、老眼に悩む人の生活は大きく変わるかもしれませんね。