イルカはサンゴを塗り薬として使っているかも
2009年、研究チームの1人がミナミハンドウイルカ(学名:Tursiops aduncus)の特殊な行動を発見しました。
群れで行動していたイルカたちが、次々にサンゴや海綿動物に体をこすりつけていたのです。
動画でも、偶然に体が当たったのではないことがよく分かります。
特定のサンゴや海綿動物を狙って、繰り返し体をこすりつけている様子を確認できますね。
では、この行動にはいったいどのような意味があるのでしょうか?
この疑問を解決するため、研究チームはサンゴや海綿動物のサンプルを採取。
体をこすりつけたときに分泌されるであろう粘液を分析しました。
調査対象となったのは、ススキのような形のサンゴ「ススキムレヤギ(学名:Rumphella aggregata)」、キノコのような姿をしたサンゴ「ウミキノコ(学名:Sarcophyton sp)」、そしてインド洋に生息する海綿動物「イルシニア(学名:Ircinia sp)」です。
その結果、これら粘液の中から抗菌性、抗酸化性、ホルモン性を備えた17種類の活性代謝物(生物に効果を与える代謝物)が特定されました。
論文では、イルカが繰り返しサンゴに体をこすりつけることで、これら活性代謝物を皮膚の塗り薬として使用している可能性が指摘されています。
そして、これは皮膚健康の保持、微生物感染の予防または治療に役立つと考えられるのです。
ただし現状では、まだ仮説の段階にあります。
このアイデアを証明するには、サンゴの活性代謝物がイルカの皮膚を実際に治療している証拠を見つけなければいけません。
そのためにはイルカの皮膚サンプルが必要ですが、研究チームによると、「これらの検証はイルカ保護の規制により難しい」とのこと。
とはいえ観察により、イルカの「こすりつけ行動」が学習によるものだと判明しています。
生まれたばかりのイルカにはこの行動が見られず、先輩イルカたちの行動を真似して徐々に行うようになるというのです。
研究チームは、今後もイルカの観察を続け、こすりつけ行動に対する理解を深めていく予定です。