YouTubeに公開されている動画から判明
アフリカのサバンナに住む「アフリカゾウ(Loxodonta africana)」では、以前から、群れの一頭が死ぬと何らかの感情的反応を示すことが知られていました。
遺体に近づいて鼻で触ったり、脚で転がしたり、近くに立って見張りをするなどが、代表的な反応です。
しかし、これらの行動は、森林地帯に分布するアジアゾウではあまり知られていません。
景観の開けたサバンナとは違い、密林の中のゾウを観察するのが困難だからです。
そこで研究チームは、一般の方やアマチュアの観察家がYouTubeに投稿した動画に注目しました。
「アジアゾウ」と「死」に関するキーワードで検索したところ、2010年から2021年の間に合計39本、アジアゾウが仲間を亡くしたときの反応を撮影した動画が見つかっています。
動画の80%は野生のゾウ、16%は飼育のゾウ、4%は半飼育のゾウ(木材産業や観光公園で働くゾウ)です。
そのうち12本は子どもが亡くなったときの映像で、さらにその中の5本は、母親のゾウが鼻で死んだわが子を抱きかかえ運んでいました。
遺体の腐敗具合から、死後数日〜数週間経っていることが特定されています。
動画に見られた母親以外のゾウは、一般に、死体に近づくと落ち着かない、警戒する、触覚や匂いで調べるなどの反応を示していました。
また、遺体をなでたり、揺すったり、持ち上げたりして、まるで死んだ仲間を蘇らせようとする動きも見せています。
こうした行動は、動物園でもよく見られる社会的な反応だそうです。
一方で、死んだわが子を何日間も運び続ける行動は、母親のゾウにのみ観察されました。
これについて、研究チームは「ゾウの母親は、子どもが自分で採餌と自衛ができるようになるまで育てるので、母子の結びつきが強くなる」と指摘。
「この長期にわたる絆の形成のため、母親は死んで動かなくなった子どもに対して、強く反応するのでしょう」と説明します。
わが子の死を悼む動物は、ヒトやゾウだけではありません。
2018年には、米ワシントン州沖で、メスのシャチが、死んだ赤ん坊を17日間抱きかかえる様子が報告されています。
また2020年には、アフリカのナミビア砂漠で、ヒヒの母親が、子どもの亡骸を10日間にわたって持ち歩く姿が観察されました。
やはり、哺乳類における母子の絆は、生物界でもとびぬけて強いようです。