糖尿病になったメスの卵子は糖尿病になりやすい子を作る
研究はよく知られている事実を発端にしています。
妊娠前や妊娠中に食べる量が多すぎたり少なすぎる場合、うまれてくる子供の体重が成人後に過剰になり、生活習慣に起因する2型糖尿病にかかりやすくなることが知られています。
母親が適正な量を「ちゃんと食べる」ことは、新生児の成長だけでなく成人後の健康にも影響を与えているのです。
何気ない事実に思えますが、妊娠前および妊娠中の食事が子供の20年後・30年後・50年後の健康にも影響するという事実は、遺伝子レベルでの深い影響がある可能性を示しています。
同様の結果はマウスを用いた実験でも判明しています。
妊娠の前後に過剰あるいは過小な食事をとらされたマウスからうまれた子供は、成長後も体重が安定せず、糖尿病などにかかりやすくなっていました。
つまり人間やマウスにおいても、親の体験が子供に遺伝している可能性があったのです。
しかし、どのような仕組みが私たち哺乳類において体験の遺伝を引き起こしているかは不明でした。
そこで今回、浙江大学の研究者たちはマウスを使って、後天的な糖尿病が遺伝するかを調べることにしました。
実験にあたってはまず妊娠前のメスマウスに対して、膵臓のインスリン生産細胞だけを破壊する毒素を注入することからはじめられました。
インスリン生産細胞が破壊されたメスマウスは慢性的な高血糖を起こし、糖尿病になってしまいます。
次に研究者たちはこの強制的に糖尿病にされたメスマウスから卵子を取り出し、健康なオスマウスの精子を体外受精させて、代理母の子宮に移植しました。
この操作によって、うまれてくる子マウスへの影響を、卵子を取り出したメスマウスの糖尿病だけに限定することが可能になります。
研究者たちは子マウスの成長を見守りつつ、経時的な変化を観察しました。
すると糖尿病になったメスマウスの卵子から作られた子マウスでは、対象群の子マウスに比べて糖代謝を上手く行えないことが判明します。
また異常はメスの子マウスよりもオスの子マウスでより顕著であり、高脂肪食品をとらせた場合にはさらに悪化することが判明します。
また糖代謝の異常は主に、膵臓のベータ細胞によるインスリン分泌量の低下であることも明らかになりました。
この結果は、膵臓のインスリン生産機能を後天的に破壊されるという「体験」をしたメスマウスの卵子からは、インスリンの分泌量が低下した子マウスがうまれてきたことを示します。
つまり親の体験が子供に遺伝していたのです。
問題は、背後にどんなメカニズムが存在するかです。