エリザベス1世が「化粧」をするようになった理由とは?
女王即位から4年が経った1562年、当時まだ29歳のエリザベス1世は、激しい高熱にうなされ、一時寝たきりの状態になりました。
診断の結果、彼女は「天然痘」に感染していることが判明します。
1796年に天然痘ワクチンが発明されるまで、致死性の高い感染症として人類を苦しめ、エリザベスの時代には、感染者の30%が死亡していました。
天然痘にかかると、40度前後の高熱や体の痛みが発生し、やがて全身に膿疱(のうほう)ができます。
2〜3週間すると、膿疱は治癒に向かいますが、患部に瘢痕(はんこん)を残してしまいます。
エリザベス1世は運よく一命を取り留めたものの、もはや以前の姿ではありませんでした。
顔を含む全身に瘢痕や傷跡が無数に残ってしまったのです。
人の前に立つ者の性か、エリザベス1世は自分の外見を気にしており、少しでも気にくわない肖像画はすべて破り捨てるほどでした。
そんな彼女が、全身にできた瘢痕に耐えられるはずもありません。
これを機にエリザベス1世は、過剰なメイクアップをするようになります。
当時にはすでに「ヴェネチアン・セルーズ(Venetian Ceruse)」と呼ばれる人気の化粧品がありました。
品質の高さからヨーロッパの上流貴族がこぞって愛用した美白化粧品で、皮膚の傷跡を隠すためにも使われたそうです。
エリザベス1世はこれを顔に厚く塗ることで、瘢痕を隠し、色白の肌を手に入れました。
さらに彼女は、唇に鉱物からなる染料を使って、真っ赤な紅を引くようになります。
こうしてエリザベス1世は、後世に伝わる象徴的なルックを完成させました。
以来、彼女の肖像画の多くは、白塗りされた顔と赤い口紅が描かれるようになります。
しかし、このメイクアップは、女王に美しさを取り戻させたと同時に、衰弱させる原因ともなったのです。