内毒素を検出できる唯一の天然資源
1956年、アメリカの医学研究者であったフレッド・バング(Fred Bang、1916〜1981)は、カブトガニの血の奇妙な特性に気づきました。
なんとカブトガニの血は、エンドトキシン(内毒素:細菌内に含まれる毒素のこと)と反応すると、血球であるアメボサイト(変形細胞)が凝固して塊になるのです。
エンドトキシン(内毒素)は、医薬品や医療機器に付着し、人体に入ると、発熱や敗血症性ショックを引き起こす恐れがあります。
そのため、注射器やペースメーカー、人工股関節といった滅菌医療機器に対しては、内毒素による汚染がないかどうか厳重にチェックしなければなりません。
その検出能力を、太古の昔から存在するカブトガニが持っていたのです。
今のところ、内毒素を検出できる天然資源は、カブトガニの血液だけだと言われています。
その後、バングの発見を引き継いだ研究者らは、アメボサイトの溶解物を医薬品の汚染検査に応用する物質を開発し、これを「ライセート試薬(LAL、リムルス変形細胞溶解物)」と命名しました。
1977年には、アメリカ食品医薬品局(FDA)により、ライセート試薬の正式な使用が認可されています。
以来、カブトガニの血液は、私たちの健康を陰ながら支える役目を担ってきましたが、近年、ある問題が懸念され始めています。
それが、カブトガニの減少です。
先述したように、採血したカブトガニは殺すことなく海に返し、また、その過程で死亡する個体もわずか3%と目されていました。
ところが、その予想値は、事実とかなり違うことが分かってきたのです。