ネアンデルタール人のDNAを受け継ぐ人は、一部の薬が効きにくい?
今回、研究チームが焦点を当てたのは、薬物代謝酵素「CYP2C9」の遺伝子多型です。
CYP2C9とは、医薬品の代謝反応を触媒する酵素であり、炎症からてんかんまで、臨床現場で用いられる15%以上の医薬品を分解し、効果を促す役割を担っています。
このCYP2C9には、20種類ほどの遺伝子多型が存在することがわかっています。
そして、祖先から受け継いだCYP2C9のバージョンによって、一部の医薬品に対する効き目も変わってくるのです。
たとえば、「CYP2C9*2」と呼ばれる多型タイプは、より一般的な「CYP2C9*1」より酵素活性度が70%も低く、CYP2C9*2の保有者は、一部の医薬品の分解がよりゆっくりになります。
つまり、同じ服用量でも効き目が弱くなるのです。
このCYP2C9*2は、「CYP2C8*3」という別の多型と一緒に、とくに同じ家系の中で頻繁に出現することが知られています。
そこで研究チームは、世界各地の146家族から得られた遺伝子配列を比較し、CYP2C9の多型を含むDNA領域が、他の現代人および祖先の遺伝子データベースに登録されている類似の遺伝子配列と、どう異なるかを調査。
その結果、2つの多型(「CYP2C9*2」と「CYP2C8*3」)を含むDNA領域は、ネアンデルタール人のものと十分に近く、彼らから受け継がれたものであることが判明したのです。
また、これら2つの多型は、ヨーロッパに最も多く見られ、次いでアジアとアメリカの混血集団に見られましたが、サハラ以南のアフリカ集団には存在しませんでした。
このことから、研究主任のヒューゴ・ゼバーグ(Hugo Zeberg)氏は「これら2つの遺伝子多型は、約5〜6万年前にアフリカを出た現生人類が、ネアンデルタール人との混血によって受け継いだと見て、ほぼ間違いないでしょう」と述べています。
具体的には、この2つの多型を持つ人は、ワルファリン(血液の抗凝固剤)、イブプロフェン(鎮痛剤)、スタチン(コレステロール低下剤)といった医薬品に対し、効き目が少し弱くなる可能性が指摘されています。
もしこれらの薬を飲んで「あまり効かないな」と感じる人は、ネアンデルタール人の遺伝子を受け継いでいるのかもしれません。