お金の受け渡しが大胆なほど、認知症のリスクが高い?
研究主任のデューク・ハン(Duke Han)氏は、今回の研究について、「私たちの目標は、なぜ一部の高齢者が金銭的搾取や詐欺の被害に遭いやすいのかを理解することだった」と説明。
「お金の扱いに異常が見られることは、アルツハイマーの初期症状のひとつと考えられており、今回の発見はその考えを裏付けるものです」と話します。
本研究では、平均年齢69歳の高齢者、のべ67名を被験者とし、「金銭受け渡しの大胆さ」と「アルツハイマー型認知症」の間に関連性はあるのかを調査しました。
被験者には、すでにアルツハイマーや何らかの認知障害を患っている高齢者は除外しています。
今回行った実験ではまず、それぞれの被験者に「オンライン上の匿名の参加者とペアを組んでもらった」と告げます。
そして、被験者に10ドルのお金を渡し、1ドル単位でその匿名の相手との間で、好きなように分配するよう指示しました。
このテストでは、被験者の「金銭的な受け渡しの大胆さ」を調べます。
これと並行して、アルツハイマーの初期症状を診断するのに使われる、一連の認知テストを実施。
具体的には、提示した言葉や物語について、短いインターバル後に想起できるかを調べるタスクや、特定のトピックに関連する単語を列挙するタスクが含まれます。
これにより「認知症の兆候」を調べ、先ほどの実験結果と照らし合わせて比較分析します。
その結果、より多くのお金を匿名の相手に渡した被験者は、アルツハイマーの初期症状を示す指標と有意に関連することがわかりました。
つまり、金銭の受け渡しに大胆な高齢者ほど、認知症の兆候を抱えている可能性が高かったのです。
これまでの同様の研究では、高齢者に特定のシナリオでお金を渡してよいかを尋ねる、自己報告式の調査方法しか行われていませんでした。
しかし、今回の研究は、「私たちの知る限り、被験者が実際の金銭の受け渡しテストに参加し、その結果を調べた最初の研究です」と、同チームのガリ・ヴァイスベルガー(Gali Weissberger)氏は述べています。
一方で、この研究結果はまだ萌芽的なものであり、相関関係の域を出ません。
高齢者における金銭面の利他的行動と認知症との関連性を確認するには、より大規模なサンプル数をもって調査しなければなりません。
また、アルツハイマー型認知症は、神経変性が原因となって脳の一部が萎縮する病気であるため、脳内の詳しい調査も必須となるでしょう。
それでもハン氏は「両者の関連性が明らかになれば、潜在的なアルツハイマー患者のスクリーニングが改善され、金銭的犯罪の被害に遭いやすい高齢者を特定し、守ることに繋がるだろう」と述べています。
高齢になると、慈善寄付などの利他的行動が増えることはよく知られており、孫にお小遣いをあげるのも愛情表現の一部ではあります。
しかし、お小遣いの額や頻度が極端に増えると、認知症のサインかもしれないので、注意が必要です。