栄養源の大部分は「植物性の藻類」に頼っていた!
これまでの研究でも、ジンベエザメがプランクトンだけでなく、植物性の食べ物を口にしていることは指摘されていました。
ただジンベイザメの食事は大量の水とともに浮遊物を飲み込むという食べ方なので、植物性食物がれっきとした栄養源になっているのか、それともただ避けられずに飲み込まれてフンになっているだけなのかはわかっていませんでした。
そこで研究チームは、オーストラリア西海岸にあるサンゴ礁帯「ニンガルー・リーフ(Ningaloo Reef)」にやってくる野生のジンベエザメを対象に調査を開始。
彼らのフンと皮膚組織のサンプルを採取し、そこに含まれるアミノ酸や脂肪酸などの栄養素を、同エリアで採取したプランクトンおよび海藻のものと比較しました。
その結果、フン中に確かに大量のオキアミが見つかったものの、あまり消化吸収されていないことが判明。
その代わりに、大量の藻類から栄養を摂取していたことが明らかになったのです。
さらに、ジンベエザメの皮膚組織に豊富に存在する「アラキドン酸(ARA)」は、浮遊性の大型藻類である「ホンダワラ(Sargassum)」から抽出されたものであることがわかりました。
タスマニア大の海洋生物学者であるパティ・ヴァーチュ(Patti Virtue)氏によると、ホンダワラは、頻繁にサンゴ礁から剥がれ落ちて海面を漂っているといいます。
AIMSの魚類学者で研究主任のマーク・ミーカン(Mark Meekan)氏は、こう述べています。
「今回の発見により、ジンベエザメの食性についてわかっていることを全て考え直さなければならなくなりました。
ジンベエザメがニンガルー・リーフにやってくる目的は、プランクトンが半分で、それ以外は大量の浮遊藻類が目当てなのでしょう」
こうした食性は、ジンベエザメが明らかに「雑食」であることを示します。
ただ、雑食性のサメは彼らだけではありません。
アメリカ大陸の沿岸部に生息する「ウチワシュモクザメ(学名:Sphyrna tiburo)」は、海草の密集地で、魚やカニ、タコなどを捕食するため、かなりの量の植物性物質を飲み込んでいます。
以前の研究では、胃の内容物の半分が海草であり、腸内からはセルロース(植物の主成分)を分解できる酵素が、サメにおいて初めて発見されました。
おそらく、動物性食物を食べる際、一緒に体内を通過する海草に対処する必要に迫られ、その結果として、植物性食物も消化できるようになったのでしょう。
そして研究チームは、これと同じことが、進化の過程でジンベエザメにも起こったと推測しています。
サメである以上、好んで植物を食べるようになったわけではないようですが、彼らは口に入った植物も食べられるように進化したのでしょう。
ただ、口に入る植物にはうまく適応したものの、ジンベイザメのこうした食事スタイルは現代において、新たな問題を引き起こしています。
彼らが食事を得るために利用する海流は、大量のプランクトンや浮遊藻類を集めてくれる反面、プラスチックなどの海洋廃棄物まで集めてしまっています。
食物とともに誤飲されたプラスチックは、ジンベエザメの腸の容量を減らしたり、消化スピードを遅らせたり、食べ物を吐き出させる危険性を高める、とミーカン氏は指摘します。
ジンベエザメの個体数は、過去75年間で62%も減少しており、海洋ゴミ問題は、この減少傾向に拍車をかける恐れがあります。
また、ほとんど全てのプラスチックは、生物によって分解されず、ただただ細かなマイクロプラスチックへと破砕するのみです。
いくらジンベエザメが植物の分解能を手に入れたとはいえ、プラスチックまで分解できるようにはならないでしょう。