最先端材料を使ったサンドイッチで溶けたプラチナ原子を追う
そこで今回、マンチェスター大学の研究者たちは、溶液中に解けている原子の個別の動きを観測する試みに挑みました。
調査にあたっては、上の図のような、プラチナを王水で溶かした溶液が上下のグラフェンによってサンドイッチされたものが用意されました。
(※王水は濃塩酸と濃硝酸を混ぜた液体で、金やプラチナなど溶けにくい金属を溶かすことが可能です。またグラフェンは炭素原子によって構成された非常に薄いシート状の構造をしています)
グラフェンの薄いシートに溶液(王水)と原子(プラチナ)を封入することで、電子の散乱を抑えて、顕微鏡に対する極薄のスライドガラスのように観測精度を上げることが可能になります。
加えて今回は、グラフェンではさまれた中央部分に二硫化モリブデンの薄いシートが配置されました。
これは、溶液に解けたプラチナ原子が異なる原子から成る固体表面に対してどのような挙動をみせるかを調べるために用意されました。
溶液中の原子が固体表面とどう関係するかといった基礎的なことを、わざわざ調べる価値があるかと疑問に思う人もいるかもしれませんが「原子レベルでの解像度」で、溶液中の原子と固体表面の相互作用をみたことがある人は存在しません。
準備がととのうと、研究者たちは早速観測を開始します。
(※観測には透過型電子顕微鏡が用いられました)
すると、上の動画のように、溶液中をプラチナ原子がフラフラと遊泳する様子が確認できました。
溶液中の単一原子の動的な挙動が観測されたのは、今回の研究が世界ではじめてです。
また原子と固体表面の相互作用を調べたところ、溶液の外側の原子のほうが溶液中の原子よりも早く動いていることを発見。
周囲に溶液が存在することが、プラチナ原子の速度を加速させる要因となっていました。
さらに溶液の存在は、プラチナ原子の拡散を促進し、固体表面のどこに落ち着いて静止するかにも影響を及ぼしていることが判明しました。
この結果は、溶液の存在が原子の固体表面との相互作用に大きな影響を与えていることを示します。
加えてグラフェンによるサンドイッチを真空に置いた場合とそうでない場合では、圧力の変化によって溶液中の原子の振る舞いに違いがうまれることが判明します。
そのため研究者たちは、既存の真空条件下で得られた原子の挙動が、必ずしも現実世界と同じものではない可能性があると述べています。
次のページでは、溶液中の原子の動きがわかることで得られる利益を紹介していきます。