「共生細菌」の代わりに「大腸菌」を保有したカメムシはどうなる?
研究チームはこれまで、昆虫および、それを宿主とする共生微生物に焦点を当ててきました。
中でも、農業害虫として知られるカメムシ類の腸内共生細菌について、積極的に研究を進めています。
今回、チームが対象としたのは、日本全国に分布する「チャバネアオカメムシ(学名:Plautia stali)」です。
チャバネアオカメムシの消化管は、後部が共生器官になっており、その内部に共生細菌(腸内細菌科Pantoea属の1種)を飼っています。
この共生細菌は、子どもの成長に欠かせないもので、母親は産卵時に、卵の表面に共生細菌を塗りつけておきます。
すると、産まれた赤ちゃんが卵の表面を吸いとって、共生細菌を獲得できるのです。(下の画像のDがその様子)
共生細菌を取り込んだ赤ちゃんはすくすくと発育し、飼育下では、80%以上が正常に羽化して、緑色のきれいなカメムシ(成虫)となります。
ところが、卵の表面を殺菌して、赤ちゃんが共生細菌を取り込めないようにすると、発育が極端に遅れ、ほとんどが大人になれずに死んでしまうのです。
では、共生細菌ではなく、「大腸菌」を摂取させたらどうなるのでしょう?
チームは、表面殺菌した卵から産まれた赤ちゃんに、大腸菌を含ませた水を与えてみました。
すると、発育は著しく遅れ、ほとんどが死滅したものの、ごく少数(5〜10%)が生き残り、通常より小さくて茶色い大人へと羽化したのです。
共生器官も無色で未発達でしたが、内部にはちゃんと大腸菌がおり、共生細菌と同じ場所を占めていました。
また、大腸菌を保有する母親が産んだ卵には、やはり大腸菌が塗りつけられており、赤ちゃんもこれを吸って大腸菌を獲得しました。
しかし、大腸菌はおもに、ヒトを含む哺乳類の腸内に住まう微生物であり、元来カメムシとは関係がありません。
にもかかわらず、カメムシに共生した大腸菌は、不完全な形ではあるものの、宿主の生存と繁殖を支える最低限の能力を示したのです。
では、このカメムシを継続して繁殖させることで、大腸菌がだんだんと共生細菌に進化することはないのでしょうか?
そこでチームは、大腸菌をカメムシの共生細菌に進化させるための実験を開始しました。