2カ月〜1年で大腸菌が「共生細菌」に進化!
しかし、単純に大腸菌を与えたカメムシの飼育を続けても、そう簡単に共生細菌への進化が起こるとは考えられません。
進化とは、膨大な年月をかけてゆっくりと生じるものだからです。
そこでチームは、「高速進化大腸菌」を用いることにしました。
これは、突然変異の蓄積率が高くなるよう遺伝子操作し、分子的な進化速度を加速させた大腸菌のことです。
今回使用したものは、通常の大腸菌に比べ、突然変異率が100倍程度に上昇し、進化速度も100倍程度に加速しています。
実験ではまず、高速進化大腸菌を与えたカメムシの赤ちゃんを飼育し、「成長速度」と「体色」に注目して、2つの進化系列を作成しました(下図を参照)。
「成長速度」系列では、最も早く羽化した成虫を選抜し、その共生器官を摘出して、内部の大腸菌を次世代へ摂取します。
「体色」系列では、最も緑色の強い成虫を選抜して、同様に共生器官を取り出し、その大腸菌を次世代へ摂取します。
そして、これら2系列の対照グループとして、進化速度を加速させていない普通の大腸菌を与えたカメムシを用いて進化系列を作成。
最終的に、「成長速度選抜」7系列に対照グループ7系列を、「体色選抜」12系列に対照グループ11系列を作成し、約2年にわたって10世代以上の飼育を行いました。
その結果、「成長速度選抜」のうち1系列で2世代目(約2カ月後)から、「体色選抜」のうち1系列で7世代目(約1年2カ月後)から、羽化率の急激な上昇(30〜80%)が見られたのです。
加えて、これらの系列では、羽化率の上昇にともなって、カメムシのサイズが世代ごとに大きくなり、体色も正常な緑色にどんどん近づいていきました。
(対照グループは、小さくて茶色いままだった)
さらに、これらのカメムシの大腸菌を培養すると、進化前は大きく赤色のコロニーをしていたのに、進化後は小さくて白色のコロニーとなり、明らかに大腸菌に変化が起きていました。
また、これらの大腸菌には、増殖速度の低下・細胞サイズの小型化・べん毛運動の喪失・細胞形態の不安定化など、遺伝子発現パターンに顕著な変化が生じていました(下図を参照)。
そして、この変化した大腸菌をカメムシの無菌幼虫に与えたところ、羽化率の向上、体サイズの増大、体色の緑化が確認されています。
以上のことから、大腸菌は、宿主の世代交代の中で突然変異を起こし、カメムシの生存を支える共生細菌へと進化したことが証明されました。
この結果を受けて、研究チームは、高速進化大腸菌を用いたとはいえ、これほど容易かつ迅速に、微生物の共生進化が起こりうる事実に非常に驚いています。
自然界では、あらゆる動植物が微生物と共生し、相互に恩恵を与え合っています。
こうした共生関係が世界中のどこでも見られることは、共生進化のハードルがそれほど高くないことを意味しているのかもしれません。